アスペクト

つれづれ雑記

角田光代
作家・角田光代さんの日常を綴る日記が、アスペクトONLINEにて連載開始です!怒涛のような締め切りの数々や大好きな肉のこと。見たこと、聞いたこと、会った人、出かけていった旅のこと。角田さんの毎日のつれづれはここでしか、読めません!!

2008年8月29日〜9月15日

8月29日
金曜日

 午後に新宿にいき、打ち合わせ一件。喫茶店の隣の席に野村進さんがいた。びっくりして挨拶したが、そちらも打ち合わせ中だったのでおしゃべりはできなかったなり。打ち合わせを終え本屋さんの前でY社Kさんと落ち合い、取材を受ける。Kさん、友人の池田雄一氏にそっくり、と気づく。見れば見るほど似ている。兄と妹のようである。
 その後あやしげな通りに移動して29の会。いやー、あやしげな通りっていうか、猥雑な感じの通りで、私なんてなんだかザ・用無しって感じだった。29の会は真夏の忘年会のような盛況ぶりであった。食べ終えて外に出たら、ものすごい雨。こういうの、ゲリラなんとかって言うんだと新聞で読んだ。家が近所のYさんと帰る。締め切りみっつ。

8月30日
土曜日

 朝走り、髪を切り、肉を食べにいく。あれっ、2日続けて肉である。29の日でもないのに肉かあー。また、ものすごい雨。

8月31日
日曜日

 夏休み最後の日。サザエさんでは例年通り、カツオの宿題がテーマになっていて、うれしかった。明日から9月って、今年もやっぱりペースが速い。

9月1日
月曜日

 新学期ですね。私の日々は何も新しくはなりませんが。先週と同じように仕事をし、ジムにいく。このところ毎回ジムで会っていたHさんもFさんもいないなー。
 ところで血液型ダイエットっていうのがあって、たとえばo型だったらば、肉はたくさん食べてもあまり太らないが、穀物を食べるとてきめんに太る、と聞いたことがあって、最近、これは真実かもしれんと思っている。肉の会のあと、下手すると体重が落ちていたりするが、魚でごはんをばくばく食べたりすると私はすぐに体重が増える。友人のo型女性もおんなじことを言っていた。だから何ってわけではないのだが、夜は善。締め切りふたつ。

9月2日
火曜日

 仕事をしてジムにいき、汗だらだらで運動しながら、もしかして明日の予定が今日だったらどうしよう、帝国ホテルにこの汗みどろでいかなならんべ? と不安になるが、明日の予定はやっぱり明日でよかったようだ。生まれてはじめて、蜂蜜を使った料理を作る。あとは雑事。締め切りひとつ。

9月3日
水曜日

 仕事をして夕刻、帝国ホテルにいく。帝国ホテルの出口のことがちょっとわかった。A5とA13の出口があるんだけど、A5から出ると迷う、ということがわかったのである。10年以上いっているのになぜ今ごろわかるんだろうねえ。帝国ホテルで選考会。新人賞の方が無事決まり、のちごはん。のち祝い酒。締め切りひとつ。

9月4日
木曜日

 ジムにいこうかなーと思ったが、いかず、仕事。ちょっと延長して仕事をして、都心に向かう。駅から近い酒場でチームEの会。いろんなお祝いや、決定ごとや、遊びの計画などでもりあがる。7時半から3時間後って、9時半だと思っていたら、10時半だった。なんでこんな計算もできないんだろう。のち、みんなでカラオケ。気づいたら2時だった。つい最近も、こんなことがあったような気がするんですが。そしてふらふらと近場で飲んでしまい、気づいたら朝だった。うげげ。締め切りみっつ。

9月5日
金曜日

 起きたら寝坊してた。当たり前か。それでも二日酔いがあんまりなく、仕事。仕事を終えて都心方面にいき、A社Sさんと肉の店。Sさんとは12年くらい知り合いの気がするが、いっしょにごはんを食べるのははじめて。肉のうまさに悶絶しつつ、場所をかえて飲み、はっと気づいたら2人で3本のワインを飲み干していた。いや、4本だったかも。これ以上飲むのもどうか、という気持ちになり、帰る。たのしかったでござる。

9月8日
月曜日

 昼に隣町までいき、ランチを食べ、戻ってきて仕事。定時に終えて、都心方面にいく。水上多摩絵さんの銅版画展を見る。吸いこまれるように静かな作品、ため息が出るほどすてきだった。水上さんとひさしぶりにお話しして、ぶらぶら町を歩き、電車で隣の駅にいく。同業者4人と待ち合わせ、飲み屋に向かう。この店、蛤がわんこ蕎麦のようにとめどなく出てくるらしい。一皿だけ食べて、あとはべつのものを食べた。あまりにたのしすぎ、飲み過ぎて、蛤以外に何を食べたのか食べるそばから忘れた。二軒目に移動し、金曜日にいっしょに飲んだSさんも合流、ざばーんざばーんと飲む。近くの人2人とタクシーに乗ったが、私は爆睡し、運転手さんに起こされたらもう家の前だった。こわいことです。

9月9日
火曜日

 昨日まで暑かったのに、今朝は風がもう秋だった。急に秋になるんだなあ。午後に銀座にいって所用、時間が余ったので銀座の町を歩き、そののち四谷方面に移動。7年くらい前に担当だったK社Sさんが、異動でアメリカにいってしまうので、Mさんを交え、ものすごーく久しぶりにお会いする。まさに7年ぶりくらい。アメリカやアジアの出版事情、翻訳漫画のこと、最近おもしろかった小説など、話は多方面に飛び、すんごくたのしかった。昨日あんまし寝ていないので、わりと早めに帰った。

9月10日
水曜日

 夕方、集英社にいって本に署名。その後Yさんたちと恵比寿に移動し、アトレの有隣堂でサイン会。遅い時間なのに、いらしてくださったみなさま、本当にありがとうございました。とてもうれしかったです。もうね、どんだけうれしいって言えないくらいうれしいんです、心から。
 それにしても恵比寿って不思議な町。8時半過ぎって私にしてみれば食後のゴロゴロ時間なのに、駅ビルがふつうに混んでいる。みなさんごはんはどうすんの?食べたの?これから食べるの?と、ごはん強迫観念症の私は不安になる。
 9時から近くの店で、9人ほどでごはん。『三月の招待状』という拙著にちなんで個々の恋愛話炸裂。しかもみな過去恋愛。過去の恋愛が、どのようにその人に影響を及ぼしているのか、けっこうあとにならないとわからないものだよな、と思った。この店のデザート、選択式ではなく、おみくじ式(お店の人がそれぞれに違うデザートを配る)で、みんなでぐるぐるまわしながら食べた。私はデザートにあまりこだわりがないが、しかしまわってくるどれも、「うひょー」と思うほどおいしかった。食べ終えたら12時、すぐにざわざわと帰る。家が近所のHさんと、タクシーのなかでまたしても恋愛話炸裂。おもにHさんの恋愛。若い人(Hさんは若い)はパワーがほとばしっているなあ、と思う。締め切りいつつ。あっ、また飲んだ食っただけの日記に……。

9月11日
木曜日

 ジムのランニングマシンで走っていたら一機開けた隣のマシンに同級生作家Fさんが。手をふりあい、それぞれ走る。Fさんの速度はえーなーと思っていたところ、真ん中の空いた一機に筋肉美作家Hさんが「ハロー」と笑う。三人並んで走る?と思ったが、Hさんは筋トレマシンにいってしまった。もう完璧に秋なので秋刀魚。

9月12日
金曜日

 ジムで久しぶりに元S編集長のMさんに会う。Mさん、同窓会で激飲みして、気づいたら荷物全部なくなっていたんだって。ジム帰りにいったから、グローブやジャージなんかも全部なくしてしまったそう。大人なのに……。奥薗先生の方法で肉じゃがを作ったら、いつもよりおいしかった。締め切りひとつ。

9月13日
土曜日

 近所が祭り。夕方、友人と待ち合わせてお買いもの、のち、イタリアごはん。あまりにたのしくて、気づいたらひとりでワイン一本飲んでいた(友人はあまり飲まないので)。それでもさほど酔っぱらわなかったので、バーにいってまたしこたま飲む。しあわせな気分で眠る。

9月14日
日曜日

 一日じゅう祭りの音。わっしょいわっしょいとくるたんびに、ベランダから外を見る。いろんな御神輿が出ていた。買いものにいったら、道っぱたではっぴ姿の人々が座りこんで飲酒していた。たのしそうだったなあ。祭り本体は、でも見にいかなかった。

9月15日
月曜日

 午前中仕事、昼過ぎに仕事場を出て、横浜へ。今日は世界戦×3を見るのである。4回戦、8回戦、予備試合と続き、5時にWBAスーパーフライ級の王座決定戦。そういえば私は後楽園でしかボクシングの試合を見たことがない。こういう大きな会場でやる試合を見るのははじめて。その次がWBCスーパーバンダム戦。西岡の対戦相手であるナパーポンって人、なんとウィラポンの弟子。紹介ビデオ(リング上部にスクリーンがあって、各選手の紹介ビデオが試合前に流れる)で、なつかしいウィラポンが登場。今は引退して、トレーナーをしているんだって。そしてナパーポンが登場するとき、彼の陣営にウィラポンがちゃんといた。感動。冷蔵庫みたいに四角くて、ロボットみたいに強くて、ぜったいに笑わなかったウィラポン。
 今から8年前、私はウィラポンのことがすごく好きで、彼が日本の若い選手と試合をすると聞いて、見にいきたくてたまらなかったことがあるのだ。その試合は兵庫で行われたから、いかなかったんだけれど。そのときのウィラポンの相手が、20代の西岡だった。ううむ。試合は西岡の圧倒的な勝ち。生ウィラポンが見られてよかった。
 最後の試合はWBAミニマム級タイトルマッチ。ゴンザレスってニカラグアの選手、はじめて見たけど、この人すごいの。すごいの。漫画みたいに強いの。そして美しい。びっくりした。彼のTKO勝ち。いやーすごかった。その後、地元で飲んで早めに帰る。締め切りひとつ……あれ、今日って休日だよね?

 みなさま、長きにわたってこの馬鹿日記を読んでくださって、本当にありがとうございました。つれづれ雑記はここで終了いたします。飲んだ食ったの毎日でしたが、毎日書くことで、一年がちゃんと365日もあるのだと実感できました。長くおつきあいいただいたこと、心から感謝いたします。それではまたどこかでお会いしましょう!

前のページへ
アスペクト