アスペクト

つれづれ雑記 角田光代

作家・角田光代さんの日常を綴る日記が、アスペクトONLINEにて連載開始です!怒涛のような締め切りの数々や大好きな肉のこと。見たこと、聞いたこと、会った人、出かけていった旅のこと。角田さんの毎日のつれづれはここでしか、読めません!!

2006年4月1日〜4月28日

日
4月1日
土曜日

 あの、3月のカレンダーの、いちばん下に、「ベコー ノ」と殴り書きされていて、このカレンダーは締め切り用のものなので、何かの締め切りだと思うのだが、「ベコーノ」が何を意味するのか、いくら考えてもわ からない。あるいは、「ベコ 1」かもしれないと思うが、それにしたってわからない。
「締め切りすぎてるんですが」と、だれかから連絡がくるのではないかと、ひやひやしている。

日
4月2日
日曜日

 忌野清志郎さんの誕生日。イエー。
 やっとこさ恒例の花見。なのに、朝から曇り。出かけるころになって雨降るんだよなー、と思っていたら、本当に出間際に雨。すでに花見をはじめているメン バーに電話をかけて様子を訊くと、まったくなんの問題もないように「花見してますようー」というので、雨のなか、花見場所へいった。
 この花見は神田川沿いでやっているもので、ここ十年くらい、いや八年くらいか、とりあえず恒例。メンバーは評論家や作家や編集者など。花見場所に着いたら、猫よけの緑の網がはってあるなかにビニールシートが敷かれ、みんな酒を飲んでいた。ゴミ捨て場………?
 どんどん暗くなってきてどんどん雨足が強くなっているのにみんな動かない。強者だなあ。神田川沿いの桜、そりゃあきれいだった。風が吹くと花がはらはらはらはらはらと舞うのもきれい。
 いよいよ大粒の雨が降り出して、ようやっと移動。安い居酒屋でじゃんじゃん頼んでじゃんじゃん飲む。いちばんの年長者Sさんがカラオケにいきたいと騒ぎだし、カラオケにいく。歌うみんなを見つつ私は途中で帰った。
 帰りの電車で、吊革につかまり、ふと席に座っている女の人を見下ろすと、なんと「空中庭園」のパンフレットを広げていた。キャストのページを、それから スタッフのページを、じっくり、じっくり、じいっくり読んでいて、それを見ていたら、酔いも手伝って、なんか、泣けてきた。私の小説のページは飛ばしてい たけれど、そんなのはぜんぜん気にならない。とにかく彼女はパンフレットをずうーっと眺めていて、ああ、映画観たんだな、おもしろかったんだな、と思った ら泣けてきたのである。だれだかわからないけれど、ありがとう(って、映画を撮ったのは私ではないけれど。豊田監督に会ったらこのこと伝えます)。

日
4月3日
月曜日

 カレンダーの「ベコーノ」が気にかかって気にかかってしかたない。ベコーノって何!(未だどこからも連絡なし。)
 夕方、早稲田の古書現世で取材。若き店長向井さんに久しぶりに会う。猫のノラにも!
 テレビの上で寝ているノラは、向井さんが抱き上げても文句も言わず、なでまわしてもされるがままになっている、ほんとーうにおとなしい猫。なでまわす私 の手を片手でそっとつかみ、ぺろぺろぺろぺろぺろぺろなめる。やばい、さらってしまいそう。カメラマンからノラに写真要請があり、向井さんが本の山にノラ を置く。ここでもノラは私の手をぺろぺろぺろぺろぺろぺろなめた。うううう、やばい、かわいすぎる。ノラ〜〜〜〜〜!
 この古本取材は、「オール讀物」という文春の雑誌に載るのですが(今月発売号)、ここで買った古本を読者の方にプレゼントするそうです。プレゼント用の 古本を買い集めたのは私や三浦しをんさんや鹿島茂さんなど。私は「食」というテーマで古本を選びました。競争率が低そうな予感がするので、よろしければぜ ひ応募してみてください(個人的には「牧羊子 天使のオムレツ」がおすすめ。ていうか、私がほしいんですけど。あれ、ここに書いて間に合うかな。雑誌は 22日くらいの発売)。
 取材ののち、新大久保に移動して、大好きな作家Yさんを交え五人でごはん。鶏の鍋を頼んだら鶏肉がなくて烏骨鶏になって(鶏肉がなくて烏骨鶏があるって すごい不思議な話だよな)、烏骨鶏鍋でしめたんだけれど、烏骨鶏って黒いからなんていうかこう、「食うぞー」という感じにあまりなりませんね。さらにゴー ルデン街に移動して飲む飲む。たのしかった。

日
4月4日
火曜日

 運動について取材を受け、えらそうに、運動のことについてしゃべったので、取材後、みなさんが帰ってから、なんだかちゃんと運動しなきゃいけないような気になって、ジムへいく。

日
4月5日
水曜日

 朝の九時から夕方五時まで取材。これはどーうしても断りきれなかったテレビの取材で、料理番組。なんで私が料理番組なのか深い謎だが、しかし断れなかった のだからちゃんとやるしかないです。肉、ということがテーマのようで、何度も何度も「肉がどのくらい好きなのか」と訊かれ、肉について語り、場所を移動し て麻布のフランス料理店にいってそこでもまた肉の話をしつつ、肉料理を教わり、「肉!肉!肉!」と連呼し続けているような一日だったけれど(自主的に、と いうより、番組テーマに添うとそうなるのだ)、あれでいいのかなあ。このフランス料理店のシェフが、私と同い年の方なんだけれど、気負いがなくて、ものす ごくおもしろくて、本当に魅力的だった。教えてくれた料理、ものすごいし(肉の量が)。こういう魅力的な人に会えると、苦手なことでも、引き受けてよかっ たと思える。締め切り四つ。
 …………「ベコーノ」って何…………。

日
4月6日
木曜日

 ああ、ついに、ついに、ついにやってしまった……。
 今日の午後の対談を、二時からだとばかり思っていて、ごくふつうに仕事をしていたら、一時半過ぎに編集者の人から「今どこですか!」という電話。「仕事 場ですけどォーもうすぐ出ますけどォー」とのんきに答えて、はっとし、「今日は何時からですか!」と確認すると、「一時ですよ!」という答え。体じゅうの 血という血が、さーーーーーーっと引く。本当に音が聞こえました。家を飛び出て、近場だったので、十五分ほどでついたけれど、それでも四十五分の遅刻。信 じられない〜〜〜〜。本当に本当に申しわけないです。
 ああ、本当に、人の誕生日を覚える前に、記憶系統をなんとかまっとうにしてくれ、私。
 対談後、少し気を取りなおし、香港で食べた「野菜と肉の炒めたものに蓋をするように卵が覆っている」料理を作る。が、「蓋のように卵が覆って」のところで失敗。野菜炒めにスクランブルエッグをのせたような料理になった。今日は何をやっても………(部屋の隅で爪を噛む)。

日
4月7日
金曜日

 ああ、もう二度とポカはしないようにしよう、と一日じゅう、言い聞かせる。くよくよしがちな人間なのだ。しかし、ベコーノがまだわからない。もう忘れてしまおうか。

日
4月8日
土曜日

 午後から京都へ。京都の大学関係者が運営するワークショップがあり、そこに招かれたのである。人前でひとりでしゃべることが苦手で、そういう仕事はほとんど断らせてもらっているのだが、これは受講する人が三十人と少なかったこともあって、気がついたら引き受けていた。
 一時間半で小説を書いてもらうのはさすがに無理だと思ったので、男女の会話文を書いてもらうことにする。私はてっきり、この仕事の依頼がきたとき、主催 側の大学の、創作科の学生が受講するのだと思っていたが、違ったみたい。参加者はみんな若かったけれどその大学の学生ではなく、住まいも京都ではなくずい ぶん遠くからきてくれた人もいた。参加して、「ぎょっ、まさか書かされるとは!」と思った人も多かろう。
 でも、二十分くらいのあいだに、みんなけっこうすらすらと書いていた。きっと本を読む人たちだから、書くこともたやすいんだろう。  宿題を出して、一日目終わり。このワークショップは飲み会つき(会費別)で、参加者ほぼ全員と主催者とで笑笑にいく。京都にも笑笑があるんですね。いろ んな人と話ができて、楽しかった。笑笑のメニュウを見て、「京都独自のメニュウなのかしらん」と京都在住のおじょうさんに訊いたところ、「全国共通だと思 う」との答え。ちょびっとがっかり。
 そののち、移動して二次会。明日もあるというのに、目の前に酒があるとどうしても飲んでしまう。飲んでしまった。気がつけば二時だった。

日
4月9日
日曜日

 昼近くに起きて(午前中仕事をしようと思ってパソコンを持っていったのに結局寝てしまったよ……)、昼飯を食べるべく京都の町を歩いたんだけれど、なーん か、ものすごい混みよう。どこいってもレストランは長蛇の列。誇張でなく、本当に長蛇の列。吉野屋まで満席。歩いているうち、道に迷い、さらに時間もなく なり、結局おにぎりを買って、食べることより会場にたどり着くことを最優先にする。
 二時から二日目。宿題は、七つの古今の小説の、男女の会話のみ抜き出したものを読んでもらい、彼らの年齢や状況を分析してもらう、というもの。それが終 わってから、昨日と同じテーマで、もう一度書いてもらう。昨日書いてもらったものより、みんな、めきめきとよくなっている。こういうの、きっと自分ではわ かりにくいんだけれど、はた目から見ると、音をたててよくなったのがわかる。ひとつずつちゃんと世界観があって、頭のなかで考えたストーリーの、ちゃんと した抜粋になっている。原稿用紙一枚の会話から、その背景の物語が薄ぼんやりと見えてくる。
 今まで書いたことがなかった人も、なんとなく書くことのおもしろさを感じてくれたらいいなあと思ったけれど、どうだろうなあ。きてくださったみなさん、本当にありがとうございました。飲み会があったおかげで、なんか、合宿したようなかんじです。
 四時に授業を終えてタクシーに乗る。「この季節、京都は観光客がいっぱいで、タクシーはもう入れ食い状態」と、運転手さん。「ちゃんと観光した?」と訊 かれたので、「仕事だったので、なーんにも見てない、桜も見てない(ごはんは全国共通の笑笑とおにぎり←これは心のなかでだけ)」と答えたところ、窓の外 に桜が見えてくるたび「ほら、桜!あそこにも桜!ちゃんと見とき」と教えてくれて、ありがたかった。「今度はゆっくり観光にきてね」と、下り際に言っても らって、これもまたうれしいことだった。新幹線で暴睡。

日
4月10日
月曜日

 受けますか?受けませんか?とも訊かずアンケートをいきなり送りつけてくる、ということが、昨今(この三カ月)たいへん多いのだが、これははやっているの でしょうか。あのね、「アンケート、答えてくれる?」という質問がまずあって、「いいですよーん」というのがあって、それからしゅるしゅると、せめて十日 とか二週間とか余裕を持って、アンケート用紙を流すのが、私としてはごくふつうの、おとなの世界の話だと思うんだけれど、こんなことでぐちぐちいうのは年 をとった証拠ですね。でもこの大流行のアンケート、諾も否もなくいきなりアンケート用紙だから、見ず知らずの人に電話をかけて「アンケート受けません」と 説明するより、答え記入しちゃったほうが早くって、そんでつい記入しちゃうんだけど、だからきっとこういう荒ぶれた手口がはやるわけなのね。流行なら早く すたれてくれ。……私ったら、怒ってるうー。締め切り三つ。

日
4月12日
水曜日

 宅配便S社の人ともめる。このところ怒りすぎて血がねばついている感じがする。
 昼にランチ寿司を食べて、午後、築地で行われる会議(お弁当つき)にいって、お弁当の蓋を開けたらまたもやお寿司だった。一日のごはん寿司だけ。でも、好きだからうれしい。会議メンバーが替わり、新鮮な雰囲気だった。締め切りひとつ。

日
4月13日
木曜日

 夜の七時から、初対面の編集者の方と、古本道場の岡崎師匠とごはん。たいへんおいしく、たのしく飲んで食べ、九時に二軒目に向かうべく店を出て、そうした らいきなり視界がちかちかと点滅をはじめる。やばい。これは倒れる前兆。二軒目が数メートルしか離れていなかったので、無事に二軒目の店に着いたのだが、 着いたとたんホワイトアウトならぬブラックアウト。気がつけば、編集者の方とお店の人に薬やあたたかい飲みものをもらって介抱されており、岡崎師匠がユン ケルを買いにいってくれていた。ものすごい汗。
 じつは先月も倒れたんだよなー。これの厄介なところは、それまで体調が悪いとか、なんかめまいがするとか、そういう前触れがいっさいないこと。調子よく ふつうに食べて飲んでいたら、ちかちか、と点滅がはじまって、これが前触れなんだけれど、予告と本編(本編、ていうか)のあいだが十秒もないからたちが悪 い。「あ、きたきた、やばい」と思うやいなや、点滅が激しく速くなって、どおーんと暗闇が視界を覆う。この間隔が、せめて五分でもあれば、自分でどこかに 移動して横たわる、とか対処の仕方もあるんだけどなあ。
 しかし、毎月倒れているとなると、なんだかいやーな気持ちになってくるざんすよ。外でごはん食べるのがこわくなるというか。相手の人もこわいだろうしねえ。
 「私が倒れたら」という手紙を定期入れに入れて首からぶら下げておこうかな。それなら点滅からブラックアウトの十秒のあいだに、いっしょにいる人に手紙を渡すことができる。
 私が倒れたら■道ばたでもいいから座らせるか寝かせてください。■甘い飲み物を飲ませてください。■薬局があればユンケルを。■ものすごく汗をかきます が、私はハンカチを忘れていることが多いので貸してやってください。■よくあることなので心配無用。五分ほどでもとに戻りますので安心してください。
 と、書いておく。マジでそうしようか。
 いや、昨日は、Iさん、岡崎師匠、本当にありがとうございました。
「ベコーノ」不明なまま。締め切りふたつ。

日
4月15日
土曜日

 昨夜、たいへんびっくりしたことがあった。いつものとおり家に戻っていつものとおり夕食の支度をしていたら、S社のIさんから携帯に電話があり、「あのー、受賞の言葉を書いていただきたいんですが……」と、言っている。
 昨日がとある賞の発表の日だと知っており、それにノミネートされていることも知っていたのだけれど、謙遜ではまったくなくて、賞をもらえることなんて百 パーあり得ない話だったから、きれいさーっぱり忘れていたのだ。Iさんの電話、だから本当に、腰を抜かしそうなほど驚いた。ぎょえええええ、と電話で叫ん でしまったよ。私があんまり叫んだり騒いだりし、Iさんが何か言うたびに「ありえへん〜〜〜〜いや〜、あ〜〜り〜〜え〜〜へ〜〜〜〜〜ん」としか返答しな いので、Iさんは呆れ、「なんだか話が成立している気がしないので、詳細はメールで送ります」と電話を切った。
 そののち、あまりの驚きに食欲が霧散。作ったごはん、ほとんど食べられなかった。
 今朝、朝の六時にぱちりと目が覚め「昨日へんな電話をもらった。きっと嘘に違いない。でも本当だったらば」と考え出したら眠れなくなり、寝間着のまま新聞を取りにいって、眺めてみる。
 嘘じゃなかった。ぎええええ。朝の光のなかでまた叫ぶ。
 考えたんだけれど、今まで、こーんなに驚いたことはなかったなあ。
 夜、都内のホテルにしゃぶしゃぶを食べにいく。
 いただいたのは、川端康成文学賞という賞です

日
4月17日
月曜日

 午後、NHKにいってラジオ。話すのは苦手なのに、 なぜか受けてしまった仕事である。聞き苦しいのにしゃべってすみません。生放送ははじめてでちょっと途方に暮れた。しかもこれ、一回で終わりでなくて次が あるみたい。次は六月の放送らしいです。うう、胃が………。締め切り三つ。

日
4月18日
火曜日

 人間の集中力の持続時間について考える。私はこのところ、ほとんど休憩なしで書き続けていると、三時過ぎに、かならず脳味噌が詰まったような感じになっ て、そわそわしてくる。それで三時以降、メールチェック回数がいちじるしく増える。まさに集中力が切れた、というかんじ。もう少し前はもっと保ったと思う んだけれどなあ。年かいなあ。
 でも、人間の集中力が本当に保つ時間は、四時間くらいだと思うな。
 午後、渋谷で打ち合わせ、その後渋谷で朗読の収録、それから外苑前に移動してごはん。渋谷って、どうも苦手で、この十年でいったのは数えるくらいなんだけれど、どんどん変わるから、いくたび知らない町に思える。
 外苑前のごはん中、今まで連載を担当してくれていた編集者の方が、なななんと、同じマンションに住んでいたことが判明し、たいへんに驚く。もちろんいっしょに帰る。締め切りひとつ。

日
4月20日
木曜日

 朝、ただの曇りだったのが、いきなり雨、突風、すごい天気。飯田橋で打ち合わせ、引き続き打ち合わせ、その後R−18文学賞の授賞式。唯川さんに、ひさしぶりに会う。式ののちごはんを食べて、酒を飲む。半日以上、エドモントホテルにいたなあ。締め切り二つ。

日
4月21日
金曜日

 午前中、所用があって地下鉄に乗ったら、前の座席でヤングジャンプを読んでいる男の子がいた。彼の隣のおじいさんが、ものすごい勢いで彼の漫画を横から見 ていた。のぞき見どころじゃない、共読ってかんじ。男の子、どうするかなーと思ってみていたら、なんとこの子は、雑誌を膝に広げ、おじいさんにもよく見え るようにして読みはじめた。やさしい人だなあ、と思った。
 私も隣の人の読んでいるフライデーをのぞきこんでみたけれど、その人はよく見えるようにはしてくれなかった。

日
4月22日
土曜日

 私、ヨドバシカメラが好きなんだれど、ヨドバシカメラって電化製品を買う予定がないといく場所ではないわな。それが、いきたいなーと思っているからか、立 て続けにデジタルカメラとCDコンポが壊れた。修理より購買を考える典型的日本人の私は、早速ヨドバシカメラにいった。それでデジタルカメラとCDコンポ を買った。ステレオ売場の人に購買しようと思ったものを指し「これは壊れませんか?」と訊くと、「いつかは壊れると思います」という答えだった。まっとう な答えであると思った。
 串揚げを食べようかと思ったが、結局焼き肉屋にいった。また肉しか食べなかった。

日
4月24日
月曜日

 午後、曙橋で取材一件、そののち紀伊国屋書店に いってトークショー。石田衣良さんと。愛、がテーマのトークショーなのだが、主催者側の意図が、恋愛奨励なのだか、少子化対策奨励なんだか、不倫奨励なの だか、夫婦間の愛情表現奨励なのだか、話しているうちどんどんわからなくなった(私の理解力不足)。でも、それで思ったのは、今、なんにおいても日本は揺 れているんだなあ、ということ。昔の価値観から脱したくて、でもまんま西欧風にするのもみっともないってみんな知っていて、でも日本独自の、となると昔の 価値観に戻ってしまうからそこを避けたくて、ちょうどいい居場所が見つけられない感じ。恋愛にしても結婚にしても、教育とか文化とかにしても、多岐にわ たってそんな感じがする。
 そののち、K書店の人とかろうじてあいていたデパートの上のタイ料理屋にいき、ゲラなおし。ちなみに、このK書店の担当者二名、男性なのだが、先ほどの トークショーにきてくれていた。トークショーのタイトルは「本当の恋はどこにある?」。男二人でその演目のトークショーにきている彼ら、というのは、傍目 にはどう映ったのか、思わず考えてしまう。
 このタイ料理屋で働いているタイの人は、日本と日本人がきっとものすごく嫌いなんだろうと思った。ゲラなおし後、三人で恋愛の話をする。締め切りひとつ。

日
4月25日
火曜日

 昼ごはん食べにいったらいきなりものすごい雨と雷。帰ってくるのにずぶ濡れになった。数時間もしないうち、見事な晴れに。へんな天気だなあ。今年の春は春らしくなくないですか?

日
4月26日
水曜日

 午前中、早稲田リーガロイヤルホテルで対談。俳優の堺雅人さんと。もちろん初対面。俳優の人はあんまり会う機会がないので、こわい人だったらどうしようと 思っていたけれど、本当に気さくな親切な方で、楽しい時間だった。出身校が同じで、学生時代に私も芝居のサークルに入っていたので、「ああ、ああ、ああ」 とうなずきあう部分が多く、共通の知人もいたりして、それもまたうれしいことだった。しかし、顔がちっさかったなあ、堺さん。(対談は「都心に住む」とい うリクルートの雑誌に載ります。)
 午後、お弁当つきの会議。お弁当は寿司ではなかった。
 そののち、新宿の飲み屋に移動して飲み会。ここで、焼酎ウコン割りというものを飲んでみる。二十人くらいの会で、そのなかにひとり、名前と手相を見る美 人の方がいて、見てもらったら、うひょおおおお、というくらいあたっていて、こわかった。三人くらい見てもらったのだが、みんな、うひょおおおお状態に なっていた。締め切り三つ。

日
4月27日
木曜日

 11時半に新宿御苑の中華屋で打ち合わせ。そろそろはじまることになっていた仕事が延期になった報告。延期に絡む壮大な話を聞く。本当に壮大だった。ところでこの中華屋、「礼華」というんだけれど、べらぼうにおいしかった。
 伊勢丹でうどん買って仕事場に帰る。ウコン割りって、二日酔いにならないんだなあと知る。
 夜、見るつもりはないのに、ついていたテレビを気がつけば熱中してみており、一時間が過ぎていた。テレビってこわいわー。おもしろいんだもん。

日
4月28日
金曜日

 三、四年前から私のスケジュール、たいがい過多気味で、ゴールデンウィークなんかまるつぶれなんだけれど、来月はとくに締め切りとほかの仕事が超過多 で、もう、こわくて来月のこと考えたくない。明日のことも考えたくない。今日の、ごはんのことだけ考えて五月末まで乗り切ろうと決意する。今日の、次のご はんのことだけ。
 今日はほぼ恒例になった肉の会(内蔵部とは異なる)。締め切り三つ。

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