アスペクト

つれづれ雑記 角田光代

作家・角田光代さんの日常を綴る日記が、アスペクトONLINEにて連載開始です!怒涛のような締め切りの数々や大好きな肉のこと。見たこと、聞いたこと、会った人、出かけていった旅のこと。角田さんの毎日のつれづれはここでしか、読めません!!

2006年8月1日〜8月31日

日
8月1日
火曜日

 まだ梅雨なのか、どうなのか、と思ううち8月に突入。ああ、早すぎてこわい。  お昼に鰻屋で打ち合わせ。それから神保町へ。焼き鳥を食らいつつ来年の打ち合わせ。焼き鳥、ひさしぶりでおいしかった。
 梅がまったく干せないよ!

日
8月2日
水曜日

 午前中、鏡さんと雑誌編集者の方と打ち合わせ。鏡さんはテレビの取材を受けていて、カメラの人たちがたくさんいた。鏡さんのスケジュールを端で聞いていた ら、耳をふさぎ「ぎゃー」と叫びたくなるような多忙さで、でも鏡さん本人は、たいへんにおだやかで飄々としており、人って本当に、キャパシティがちがうん だなあ、と思った。私のキャパがうずらの卵大だとしたら、鏡さんのそれは駝鳥の卵大であろう。
 昼、目当ての店がお休みだったので久方ぶりにファミレスにいく。昼にファミレスにいくというのはかなり果敢な行動なのだが、いく。混んでいる、子どもが この世の終わりのように泣き叫んでいる、注文の品がこない、注文の品がこないと怒って帰る客がいる、スタッフ数人がフロアの隅でもめている、たしかに、 ちょっとした勇気を必要とされる場であった。身が縮こまるような感じがするが、この雰囲気、そんなに嫌いではないのかも。
 夜は野菜と魚がたくさんある献立にする。肉肉、と続いた反省。

日
8月3日
木曜日

 粗挽きソーセージの挟まったパンのようなものを食べていて、はたと、「私が食べたかったのはこのパンみたいのではなくて、ただのソーセージだった!」と、気づくことはままありますね。
 同様に、ラーメンを食べていて「麺なんか食べたくなかった、私は汁が飲みたかっただけだ!」と気づくこともありますね。
 カツサンドを食べていても、「サンドイッチではなくただのカツが食べたかった!」というのもまた、あります。
 特性富士蕎麦を食べていて「蕎麦っていうよりこの温泉たまごが食べたかった!」ってのも、またあります。しかしながら、ただのソーセージ、ただの汁、た だの温泉たまご、というのはなかなかランチとして扱っていないものです。ただのカツ、ならばお肉屋さんにあるけれどもね。
 いや、昼ごはんにサンドイッチを食べていてふと思ったことがらなんですが。

日
8月4日
金曜日

 やっと夏である。急激にあつくなったのでだるい。しかし仕事。だるくても仕事。さぼりたい気持ちを叱咤してジム。締め切りふたつ。

日
8月5日
土曜日

 やっと晴れが続いている。梅を干す。今年の梅は、なんかすごくうまくいった感じ。夜、近所に新しくできた焼き肉屋へいく。ここはホルモン中心で、食べた ことのない肉がたくさんあった。しかし特筆すべきは壷ホルモン、壷ハラミで、ちっこい壷に入った肉をずるずる引き出して焼くのだが、「これは切ってから焼 くのでしょうか、それとも長いまま焼いて、それから切るのでしょうか」と、お店の人に訊くと、長身でたいへん男前の韓国人の男の子は、「えーと、焼いてか ら、切ったほうが……」となぜか照れたように言葉を区切り、「おいしい」とちいさくつけ足して、照れたまま厨房へ戻っていった。何に照れていたんだろう。 これがたいへんにおいしかった。
 少し前に買ってなかなか読めなかった「水木しげる伝」上巻から読み出し、やめられなくなる。すげえ。

日
8月6日
日曜日

 「水木しげる伝」中。戦争がはじまり、もうものすごいことになっている。
 知人から、情熱大陸を見てね、と言われたので、テレビの前でスタンバって見る。いい番組だった。

日
8月7日
月曜日

 すさまじい暑さですな。でも、湿度が去年より低くて楽な気がします。取材等何もなく、ジムいってふつうに家に帰り、ごはん食べて、「水木しげる伝」下。下は中よりはテンションが落ちるがそれでもだいぶおもしろい。ところどころで、泣く。締め切りひとつ。

日
8月8日
火曜日

 8がふたつ重なっているけれど、今日はなんかの日?
 来客なく、外出の予定なく、ずうっと、ひたすら、小説を書く。台風がきているらしく、暑さはおさまったが、むしむししているので、夜は水だこの刺身としめ鯖にする。さっぱりとね。

日
8月9日
水曜日

 この日は毎年父と母が眠るお寺のお盆の日で、昼に横浜(山側ね)を目指す。父と母のいるお寺さんにいってさらに移動して、母方の姉妹と祖母がいるべつのお 寺にいき、がひん、とするほど蚊に刺され、都内へ戻る。5時に池袋で打ち合わせがある。5時前についたので、池袋西武を冷やかす。池袋って何時きてもなじ みがないなあ。
 気づいたら5時まで数分しかなく、打ち合わせのある四川料理店に走る。
 ディープな中国・台湾料理についてくわしいIさんお勧めの店は、行列必至らしいが、この日はふだんよりは空いているとのこと。夏休みだかららしい。とは いっても、6時を過ぎると満席になった。4人で卓を囲む。料理はたいていが辛い。豚肉の煮込みを頼んだら、真っ赤なスープに唐辛子がぎょうさん浮いたラー メン丼が出てきた。興奮する。
 食後、Iさんの案内で中国スーパーにいく。まるっきり外国。外国にあるミニスーパーである。売っているものもすごい。水槽にはスッポンが泳いでいる。白 くなって沈んでいるスッポンをSさんがじいーっと眺めている。「これ、死んで……」と言いかけると、Sさんは「しっ」と言った。
 外国にいる気分になって、激辛調味料と、XO醤と、冷凍ちまきを買った。Kさんは煮込んだ豚足と、見たことのないへんなジュースを買っていた。グループ旅行の際、必ずこういうへんなものを買う人っているよなあ、と思う。
 ゴールデン街に移動し、軽く飲んで散会。帰りの車のなかで、突然私よりも若いKさんが、日本文学現代史のようなことを話し出す。Kさん、三十代なんて嘘で、本当は七十歳近いのかもしれない。

日
8月10日
木曜日

 えーとあの、9月の宣伝をします。させてください。9月にベターホームというところから、小説と料理の本を出すのですが、それのサイン会をします。お時間があったら、ぜひ。
 9月9日(土)午後3時〜 ジュンク堂書店 池袋店、
 9月10日(日)午後3時〜 青山ブックセンター 自由が丘店
 です。
 料理の出てくる小説を書いて、その料理法が各章ごとに出てくる、という本です。
 私は料理は好きなんだけれど、適当三昧なので、砂糖小さじ2とか水1カップとか、そういう分量がまるきりわからないまま、でも自分でよく作るものを小説 に登場させたのですが、ベターホームの方々が見事にその調理法を再現してくださいました。きっと私が作って食べているものよりも、この調理法で作ったもの のほうがおいしいと思う。

日
8月11日
金曜日

 世間はどうやら、お盆休みに入っているらしい。
 夜、森絵都さんと編集者の方々、七名が仕事場に遊びにきてくれる。ワインをがばがば飲む。みんなものすごい量のワインを飲んでいるのに、ちゃかちゃかっと洗い物をしてくれて恐縮し感動する。心の底の底からたのしい会で、帰ってたのしい気持ちのまま寝る。

日
8月12日
土曜日

 仕事場に寄り、ついでに昨日の空き瓶を数えてみるとワインが7本。昨夜の1名はあまり飲めない人だったので、だいたいひとり1本計算。あのメンツでこの数 ではいかにも少ない。みんな体調が悪かったのか……と考え、違う、足りんかったんじゃ!と気づく。もっと飲めたがワイン数が底をついたのだろう。もっと用 意しておけばよかった。雷雨。

日
8月13日
日曜日

 自宅ベランダのベンチが壊れたので、椅子を買うため町を歩く。アンティークショップが多い町なのだが、軒並みお休み。アンティーク屋は日曜が休みだったっけ、と考え、あ、盆休み?と思い至る。椅子買えず、汗みどろ。

日
8月14日
月曜日

 ああ、本当に盆休みらしい。朝の電車がらがら。朝の電車ががらがらになると、楽でうれしいながら、そこはかとなくさみしい気持ちになる。「いつもこの電車に乗っているみなさあーん、今は海ですか山ですかあっ」と心の内で叫ぶ。
 いじましく仕事をした帰り、八百屋にいくと八百屋が軒並み休み(三軒いって三軒とも)。本当にお盆だなあ。スーパーまで戻るのも面倒だったので、今日の夕食は野菜なし。盆のあいだは締め切りが少なく、それはうれしいことである。

日
8月15日
火曜日

 お昼にごはんをたべにいったらいろんな店がお休み。お盆なんですね。結局蕎麦を食べた。
 夕方、O兄と久しぶりに飲むために下北沢にいく。O兄は私の兄でもなんでもないが、兄弟で知り合いなのでO兄、O弟、と呼び名で区別している。O兄は出 版社の人だが、元同級生というすんげえ古い知り合い。二十歳くらいのとき、いきなり校内で呼び止めて芝居のチケットを買ってくれたのである(私はお芝居を やっていて、彼はそれを見にきてくれていた)。O兄は、私がデビューした二十三歳のころから、貧しい物書きに同情してか、いつもおいしいものをたくさんた べさせてくれた。今回もおいしいものをたべさせてくれた。おっさんになってからおいしいものを好きになる人はいるが、彼は二十歳のころからおいしいものが 好きなのだ。きっと三歳とかそのあたりからおいしいものが好きだったんだろう。
「二十歳のときから彼は竹中尚人に似ていて、今も似ているが、それは彼が老けていない、ということか、それとも、昔から老けていたのか」と考えつつ、あれこれ話してさんざっぱら飲む。締め切りみっつ。

日
8月16日
水曜日

 今読んでいる小説に「失ってみなくちゃわからないなんて私ったらなんてバカ」というような文章があった(これだけ抜き出すとあまりいい小説には思えないが、前後の文脈から読むとぴしりとくるのである。とてもおもしろい不思議な小説)。
 近所にごくたまにいくビビンパの専門店があって、男の人がひとりでやっているちいさな店なんだけれど、ビビンパだけの店なんてそうそうないし、とてもお いしいので、昼ごはんを食べにときどきいっていた。半年くらいいっていなかったので、今日の昼、ふらりといってみたら、シャッターが閉まっている。やっぱ り盆休み、と思ったら、シャッターに貼り紙。「実家のある茨城に帰ることになりました。五年と五カ月のご愛顧ありがとうございました」と、手書き文字。こ こで私はまさに「失ってみなくちゃわからないなんて私ったらなんてバカ」と思った。半年もブランクをあけるんじゃなかった。最後に食べたかったなあ、豚キ ムチビビンパ。鮭と明太ビビンパも。

日
8月17日
木曜日

 この数日、まったくこなかった仕事のメールがほつりほつりときはじめたので、お盆休みも終わりなのかなーと思う。午後にジムにいったら仕事場がおんなじマンションのHさんに会う。私とHさんはものすごくまじめにジムに通っていると思う。
 帰ってきたら土砂降り。新宿で会があるので、少し早めにいって愛すべき伊勢丹に……と思っていたが、この土砂降りじゃあねえ。今年の夏は、なんだかかわいげがないですなあ。
 新宿で、テレビの会社の人と、しをんさんのお祝い会がある。ずっと昔、トレッキングをする番組があって、それに私もしをんさんも出ており、そのテレビを 作ってくれた人たちが、お祝い会を企画して、私も呼んでくれたのである。新宿南口の焼き肉屋での会で、「じゃんじゃん肉の出てくる店を選びました」とSさ んがおっしゃるとおり、じゃんじゃん、本当にじゃんじゃん肉が出てきて、それがまた、さぱさぱとなくなっていって、気持ちよかった。たいへんに盛り上が る。

日
8月18日
金曜日

 今朝、体脂肪計付き体重計にのったところ、体重は変化なしだったが、体脂肪がありえへん数値を叩き出した。多すぎたのではなく少なすぎ。だって11パーセ ントって……。体脂肪の計量のみ、いかれてしまったのだろう。しかし、11パーセントの体脂肪だと、脂肪は「燃えやすい」、体質は「痩せ」という表示が出 て、これを眺めていたらうっとりと気分がよくなった。脂肪、燃えやすい! 体質、痩せ!! なんてすてきな言葉だろうか! 体脂肪計よ、このままどうか、 いかれていてくれ、と願い、ああ、なんてちっぽけな願いであることか、と昼ごろになって思った。締め切り二つ。

日
8月20日
日曜日

 夏こそすき焼き、というコマーシャルを見て、すき焼きにする。食べ過ぎて、食後、何かの毒が入っていたかのように具合が悪くなり、気づいたら熟睡していた。

日
8月21日
月曜日

 昼に、さぬきうどんの店で、「じゃこ天うどん」を食べる。じゃこ天って、じゃこの天ぷらかと思っていたら、薩摩揚げのようなものだった。これはじゃこをす りつぶして揚げてあるのだろうか。似たようなものをかつて食べて、似たような感想を抱いたことがあるが、それがどこだったのか思い出せない。広島だったか 岡山だったか……。関西の食べものかなあ、これは。うちでふつうに作れるものなのか否か、知りたい。午後取材一件。締め切りふたつ。

日
8月22日
火曜日

 午前中にジムにいき、仕事をし、夕方地下鉄で東京會舘にいく。芥川賞と直木賞の授賞式がある。このパーティ、二回しかいったことないけど、今回はそれにも ましてすごい人。編集者の人によると、やっぱりいつもより、ごわーと多いとのこと。人がたくさんすぎて、舞台が遠く、だれも見えん。授賞式が終わり、パー ティへ移行する段階で抜け出して、S社のMさんとごはんを食べにいく。生まれてはじめて「馬の焼き肉」を食べた。もんのすごく、おいしかった。銀座でも肉 食ってやがる。
 銀座じゅうをさまよい、あちこちの二次会や三次会におじゃましたが、ほぼ酔っていて人に連れていってもらったので、歩いたのが銀座でも戸越銀座でもべつにおんなじだった。それくらいどこ歩いたのかわからなかった。

日
8月23日
水曜日

 二年ぶりくらいに、ピザの出前をとってみた。配達の男の子の胸のところに「レベル1」と書かれたバッヂがあったが、あれって、何のレベルだろう? 運転の? 配達の? それとも、もっと何か深い意味? 締め切り二つ。

日
8月24日
木曜日

 午後、打ち合わせ。来年、再来年、の話が出てくると、もう何がなんだかわからなくなる。どうしてこうも、数字(年とか月とか含めて)に弱いのか、と思う。
 夕方S社にいったら、ロビーに恩田さんがいた。会えてうれしい。でもすぐ別れ、打ち合わせごはん。のちビール。たのしい夜でござった。

日
8月25日
金曜日

 蝉の大合唱が聞こえる。海にいきたいなあ。しかし、もう8月も終わりである。今海いったってもうクラゲがいるよ、と自分に言い聞かせる。締め切りひとつ。

日
8月26日
土曜日

 先日も書いた壷カルビ、壷ハラミのとりこになってしまい、この数日、ずっと壷肉のことを考えながら過ごしていた。午後にジムにいって、そのごほうびのように壷肉の店にいき、壷に入った肉を焼いて食べる。壷ホルモン、ってのがまた、すばらしかった。
 ホルモン系でごはんを食べられる人がたまにいるが、なんとなくその気持ちはわかるものの、私は食べられない。なぜかカルビでも食べられない。前に、カル ビとごはんをものすっごくおいしそうに食べる人を見て、私もまねしてみたが、だめだった。なぜだかはよくわからない。ちなみにラーメンでごはんも食べられ ない。ラーメンライスの意味がよくわからない。  帰り、近所で盆踊りをやっていると聞いたので、ちらりとのぞきにいく。広場がないからか、道路を封鎖して、露店が並んでいる。が、テキ屋さんの露店では なく、近隣の人がやっている屋台。私はテキ屋さんの露店を愛しているので、少しものさみしいが、しかしどの露店も大盛況。ジムでいっしょのLさん家族に会 う。乳母車に乗ったパグを、合計三匹見る。

日
8月27日
日曜日

 鰯を買いに魚屋にいったら、鰯が一匹400円もしやがるので、路線変更して、鯖を買ってしめ鯖を作る。これが、自分のしめ鯖史上初のおいしさであった。肉厚であぶらがのっていて、たいへんにおいしい鯖だった。鯖は今が旬なのだろうか。
 シャンパンを一杯だけ飲むつもりで開け、気がついたらひとりで一本飲んでいた。

日
8月28日
月曜日

 今朝の電車はカップル率が高かった。カップルで早朝の電車に乗っていちゃつくのって、どういう経緯なんだろうなあ(昨日泊まっていっしょに通勤しているの だろうが、なぜ、朝方いちゃつくか、という経緯が知りたい。足りないのか、あまっているのか、余韻なのか、そういうことですね)。一方、こんなカップルも いた。電車のドアが閉まりかけのとき、二人で駆けこんできたものの、男が先に車内に入った時点でドアが閉まってしまい、女ひとりホームに取り残され、「あ あ」とみんなが思った(だろう)そのとき、ほとんど閉まりきりつつあるドアの隙間に女がばしっと両手をはさみ、ぐぐぐうううっとものすごい力でドアを開け きり、にこにこ笑って車内に入ってきた。にこにこ男に向かって笑いながら自力でドアを開ける女の人、すごかったなあ。男も手を貸してやればいいのに、ただ 見ていた。きっと、ちょっと唖然として何もできなかったんだろう。
 午後、お茶の水で取材一件、のち、同じくお茶の水で会議。思ったよりもはやく終わり、ごはんを食べて酒を飲む。久しぶりに会った保坂さんに「腕が立派になった」と言われる。今年の夏、もう何度言われたか。でも隠しません。すみません。12時半ごろ散会。

日
8月29日
火曜日

 待っていました肉の日。午後にジムにいき肉に備える。この肉の会のおかけで、私は今まで降り立ったこともない土地に幾度も降り立っている。四年ほど前は、 仕事で毎月都内のどこかに出向いていたけれど、そういうことがなくなった今、私に東京案内をしてくれるのは肉のみである。薄い、広い肉に、またもやみなで 興奮し、体の芯まで肉香をしみこませ、モヒートを飲みにいく。今回は、興奮の雄叫び度が三割減の感じがしたけれど、それは肉のせいではなく、目も鼻も攻撃 してくる煙のせいだろう。
 私だけまた早く帰る。みんないつも帰らないので、肉の会メンバーは夜のなかに住んでいる気がする。午前3時頃になると、肉のにおいをさせながら、たのしそうに笑いながら、どこへも帰らず夜にとけてゆき、また明くる日の夕方、夕べの夜から「飲むべ」と言って出てくる気が。

日
8月30日
水曜日

 家と電車のなか、べつべつに読み出した二冊の本が双方おもしろくてたまらず、たいへんなことになっている。ああ、おもしろい本ってなんでこんなにおもしろ いんだろう! エレベーターを待つあいだ、パソコンが立ち上がるあいだ、鍋の湯が沸くあいだ、もうほんの数秒が惜しくて本を開いておることよ。鞄に入れた 本のせいで、日中、集中力がとぎれまくる。
 午後は森さんちに遊びにいく。途中合流組も入れて、最後は八人で飲む。たのしくて時間を忘れ、気づいたら二時近かった。こういうたのしい時間がないと、 気分はどんどんやさぐれていく。あと二カ月はやさぐれずにすむたのしさだった。締め切りよっつ。いつのまにか乙女座月間。

日
8月31日
木曜日

 二日前くらいに読み出した二冊の本がおも しろくてたまらず、鞄に入れてある方の一冊が気になってたまらず、ラスト近く、観念して、仕事を放棄して仕事場で読みふける。読み終えちまったよ! 仕事 もしていないよ! ま、いいか。夏休みの最後の日だしね(ふと不思議に思うが、私はいったい何歳まで、8月31日を「夏休みの最後の日」と思うのだろ う)。
 読み終わってさみしいが、家に帰ればもう一冊が私を待っている。締め切りひとつ。

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