アスペクト

つれづれ雑記 角田光代

作家・角田光代さんの日常を綴る日記が、アスペクトONLINEにて連載開始です!怒涛のような締め切りの数々や大好きな肉のこと。見たこと、聞いたこと、会った人、出かけていった旅のこと。角田さんの毎日のつれづれはここでしか、読めません!!

2006年9月1日〜9月30日

日
9月1日
金曜日

 もう9月だよ。あと四カ月で一年終わりだよ。今日、学校のある人は久しぶりに学校にいくんだろうなあ。
 ところで、締め切り関係のことを同業者の人と話していると、よく、夏休みの宿題、という話題が出る。夏休みの宿題の分配と、締め切りまでの仕事の分配を 重ね合わせて。締め切りぎりぎりまでかかったり、遅れたりする人は、夏休みの宿題も、31日に泣きながら、サザエんちのあの息子のようにあわててやること が多いようである。三つ子の魂百まで、ということだろうか。
 そんで、夏休みの宿題をどうしていたかと私も訊かれるのだが、じつは、私は夏休みに宿題というものをやった記憶がまったくない。これは私の記憶の欠如か もしれないし、あるいは、本当に夏休みに宿題を出さない学校だったのかもしれない、宿題はあったが私は全面的に無視していたのかもしれない。ともあれ、 「夏休みの宿題」というものがどんなものかまったくわからない。しかしそれでは話にならないので、夏休みの宿題というものは締め切りの比喩なのだろうと 思って、いつも、計画的にこつこつとやりました、と答えている。基本的にこつこつ系なので。これって経歴詐称とかになるかな。

日
9月2日
土曜日

 昼、パルコ劇場にお芝居を観にいく。私は最近まったくお芝居を観ていないので、芝居というものはあまり人気がないのだろうと思っていたが、激混みだった。 自分が観ていないとみんなが観ていないと思うのは間違っているのである。非ベストセラー人間はつねに世界の中心から外れているのだから。
 おもしろいお芝居だった。救い、とか、いやし、とか、やさしさみたいなものを、ていねいにていねいに排斥してあって、そこがよかった。
 終演後、タクシーをすっ飛ばし神楽坂に向かう。今日はたこ焼きの集いがある。地域の会のたこ焼きマスターが、みんなのためにたこ焼きの技を披露してくれ るのである。開店前の飲み屋さんを借りて、たこ焼きを焼くのである。遅れて着くと、みな立食パーティのように立ってテーブルを囲んでいる。テーブルにはた こ焼き機二台。たこ焼きマスターの技はもう終わってしまったらしく、地域の会のお嬢さんがくるくると器用にたこ焼きをまわしている。私がタクシーに乗って いるあいだに、マスターから弟子に、はやくも技は伝授されたらしい。
 たこ焼きはたいそうおいしかった。最近、店で買えるたこ焼きは、外側をかりっかりに揚げてあるでしょ。あの揚げたこ焼き状のものが私はあまり好きではな いのだが、今回のたこ焼きは、昔ながらの、外がかりんとしていて、なかがとろんとしている、たいそうすばらしいたこ焼きでござった。
 途中、たこがなくなり、梅にんにく、笹蒲鉾、チーズ、チョコ、などを工夫して入れて作っていた。が、やはり「たこ焼き」という名称のものはたこ入りが正解だと思った。
 飲み屋さんの開店の五時半には、大あわてで片づけて、たこ焼きのたの字もなかったように席についてみんなでビールを飲んだ。ビールをたくさん飲んで、九時半ごろ解散。
 帰って、もう一冊のおもしろい本を読みはじめ、風呂場でぼうぼうと泣きながら読み、出てもベランダで涼みながら読み、十二時ごろ、読み終わってしまった。ああ………。

日
9月3日
日曜日

 洗濯、掃除、買いもの。この数日に読み終えた本の余韻が残っていて、古本屋さんで本を買い、帰ってきてさっそく読む。無性に炊き込みごはんが食べたくなり、夜は五目炊き込み。五目ってのはー、鶏肉、人参、ごぼう、こんにゃく、油揚げ。
 最近、スーパーでカリスマ豆腐っての売っていて、たくさん種類があるんだけれど、そのなかの「豆乳入り豆腐」というのが気になって、今日、ついに買う。 すげえな、これ。豆乳のなかに豆腐が入ってるんだから! ……あ、だから豆乳入り豆腐、なのか。いやこれ、すごくおいしいんだけれども、豆乳入り豆腐にか ぎっては、ネギとか生姜とか薬味がまったく合いません。せっかく刻んだりすったりしたのに!
 夜の風がもう秋。

日
9月4日
月曜日

 午後、NHKにいってラジオ。次の用まで時間が空いたので、新宿で時間をつぶし、外苑前まで移動する。タクシーの運転手の人が、運転しながら東京案内をし てくれた。「右手が国立競技場、この先が墓地、四月は桜がそりゃあきれいで、人出もすごい」という具合に。おかげで、外苑前と、六本木と、赤坂がどのよう につながっているのか、なんとなくわかった。
 外苑前の和食屋さんで、「夜をゆく飛行機」という本の打ち上げ。すばらしい絵を描いてくださった金子恵さんと久しぶりに会う。なぜか、気づいたら相模大 野話でたいへんに盛り上がっていた。二軒目をさがして町をうろつき、Nさんが動物的勘で見つけてくれた外国のなかの外国みたいな飲み屋で少しずつ飲み、散 会。たのしかった。締め切りひとつ。

日
9月5日
火曜日

 故意に寝坊。少し前までは、寝不足でもがんばって起きていたが、体調にもはや自信がなく、がんばらないことにした。
 清志郎の新曲を聴いていたら泣ける泣ける。「激しい雨」、すごいっすよマジで。泣きながら仕事してます。
  出はじめの秋刀魚を買う。秋刀魚ってえらい魚だよな。鱗を取る必要もないし、焼くだけで勝手においしくなってくれるんだから、なんていうか、食べられるた めに生まれてきたようなものだよな、と思いつつ食べる(これ、そっくり同じことを前にも書いたような気が……。秋刀魚の季節になると毎年おんなじこと思っ ているらしい)。締め切りひとつ。

日
9月6日
水曜日

 雨。ざーざー降りなのに、自分でも阿呆かと思うが、傘を忘れる。エレベーターに乗って傘をとりにいくのが面倒で、雨のなか走って駅にいく。どのくらいの面 倒くさがり屋なんだ、とずぶ濡れになりながら思う。おじさんが駅の構内で、傘をばしゃばしゃやって水滴を飛ばしていて、それをもろにかぶってしまい、朝か らいやな気持ちになる。そんなに水滴ふりとばさんでもよろしいっての。
 昼飯食べて帰る道すがら、いろんな人が新聞号外版を持っていて、なんだかそのお揃いの様子がうらやましく、私もほしくなるが、どこで配っているのか、皆 目わからずもらえなかった。号外って、配るものなの、それとも売っているもの? 配るとしたら、だれが配っているんだろう。新聞社の人のわけないし……町 の新聞屋さんなのか。
 夕方、神保町のおいしい焼鳥屋さんで取材。焼鳥に思うことを話す。取材をしてくださったかたが、すべてのおいしい物好きの人があこがれる犬養裕美子さんだった。ほんもののおいしいもの大臣だー、と思いながら話した。
 届いていた「群像」という文芸雑誌、今月号がすごい。重い。いつもの三倍くらい厚さがある。短編小説がたくさん載っていて、私の好きな作家もたくさん書いていて、ついつい、読みふけっちまう(あ、私も書いてますが)。いやー、おもしろい、群像。短編好きにはたまらない

日
9月7日
木曜日

 午後三時過ぎ、どーん、どーん、という音が鳴り響き、笛の音が聞こえはじめる。今日が白山神社の定例祭。だんだん祭囃子が近づいてくる。いいですねえ。血が騒ぎますねえ。
 夕方、高円寺で打ち合わせ一件。その後、古本居酒屋に移動し、久住昌之さん、久住卓也さん兄弟とトークショー。前回、井上荒野さんのトークショーが行われた場所。
 店内では手ぬぐい展が開催されていて、あちこちにきれいだったりおもしろかったりする手ぬぐいがずらりとかかっている。すごいの。岡崎師匠の本の表紙の手ぬぐいもある。私も二枚買いました。ジミヘンのと、「新・中学生日記」(後述)のと。うれしい。
 トークショーのテーマは「中学時代」。なぜに中学時代かというと、久住兄弟QBB著の「新中学生日記」第六巻が刊行されて、その帯を私が書かせていただ いたご縁のトークショーなのである(この漫画、すんげえおもしろい! 本当に!)。話しながら思うに、中学時代、というのは、女子より男子のほうがだんぜ んおもしろい。阿呆さの突き抜け加減が。
 久住さんご兄弟に会うのははじめてだったのだが、とてもおもしろい人々だった。腹がよじれるくらい笑った。トークショーの途中で、ものすごい大雨が降ってきて、居酒屋の出入り口からかすんだ商店街が見えるのが、すばらしくきれいだった。
 トークショー後、近所の台湾料理屋で、大勢で飲む。帰り、そのなかにいた荻原魚雷さん(初対面)が、「ぼくんちはここなんです」と教えてくれたのだが、 久住兄が「みんなでいこう」と言いだし、冗談かと思ったら、本当におうちに入っていく。一時過ぎに、十人くらいがどやどやおじゃましてもいいなんて、荻原 さん、すごい太っ腹な人だなあ。壁という壁が本で埋まったおうちだった。同業者友だちと、本棚をじろじろ眺めまわして、自分たちの本をさがした。友だちの 本は二冊あり、私のはなかった。でも、人んちの本棚を眺めまわして、そこに自分の本がないと知るや、すねるのは間違っている(こうして書くことが、もうす ねていますね)。
 学生に戻ったような夜でしたことよ。

日
9月8日
金曜日

 お昼に、讃岐うどんの店で、カレーうどんを頼んだら、紙エプロンが運ばれてきた。お洋服に汁が飛ばないように、ということらしい。が、ひとりで紙エプロ ンってすごーく抵抗がなあい? みんな紙エプロンならいいんだけど、ひとりで紙エプロンするの、すごおくいやなんだけど、それって私だけ? ちょうど黄色 いTシャツだったので、飛びたまえ飛びたまえ、と寛容な気持ちでエプロンなしで豪快に食べた。食べながら、私が本当に食べたかったのは、これじゃない気が する、と思ったが、では何か、というとうまく思い浮かばなかったので、これが食べたかったのだ、と言い聞かせながら食べ終えた。しかし私も、こういうどう でもいいことをつらつらとよく考えるもんだよな。締め切りひとつ。

日
9月9日
土曜日

 池袋ジュンク堂の喫茶店に午前中に集合、取材一件。お昼ごはんを食べにいくついでにお料理教室を見学にいく。というのも、今日の午後ジュンク堂でサイン会 があり、その本を作ってくれたところがベターホーム協会で、ベターホームのお料理教室池袋校がジュンク堂の近くにあったので、連れていってもらったのであ る。
 お料理教室ってはじめて見たけれど、ちょっと感動した。家庭科の時間を思いだした。土曜日だからか、若い娘さんが多く、みなエプロンと三角巾をしているので、かわいらしかった。どの教室も大盛況。お料理教室の人気って一定しているんですね。
 午後にもう一件取材、それからサイン会。ジュンク堂の小海さんや田口さんに久しぶりに会う。夜は、先週もらった松茸で松茸ご飯と土瓶に入っていない土瓶蒸しふう汁。

日
9月10日
日曜日

 昨日に引き続き自由が丘でサイン会なので、昼過ぎに家を出る。自由が丘にいくのってマジで二十年ぶりくらいだよなーと思いながら、乗換駅にきて、ものすごいことに気づき愕然とする。
 なんと私、財布忘れてきたのである。スイカカードがあるから気づかず電車に乗ってきてしまった。財布持ってないってどうよ。しかし、家まで戻ったら完璧 に遅刻する。スイカカードとともに私鉄カード(パスネット)も持っていたので、とにかく、自由が丘にいくだけいこう、と決心し、電車に乗る。
 しかし、一銭も持たない状況で東横線に乗ることが、あんなにこわいことだと思わなかった。だって、もし途中で行き倒れそうなくらいのどが渇いたって ジュースも買えない。電車が止まってしまってもタクシーに乗れない。しかも、もし自由が丘の改札で、私鉄カードの残金が足りず自動改札がピンポンピンポン 鳴りながら扉を閉めてしまっても差額が払えない。キセルして逃げるしかないのである。
 しかし残高はきちんと残っていて、無事改札を通り抜けることができた。問題は帰りである。私鉄カードとスイカカードだけで家に帰り着けるか。サイン会の最中、私が文字通り一文無しでそこに座っていることを見破られることはないか。どきどきしながらサイン会にのぞむ。
 それはさておき。サイン会にいつもきてくださる方、はじめてきてくださった方、カップルや家族できてくださった方、友だちに頼まれてきてくださった方、つまるところすべての方々、本当に本当にありがとうございました。
 ベターホームの担当のFさんがお金を貸してくださったが、使うと返すの忘れそうなので、スイカカードと私鉄カードだけでなんとか自由が丘を離れ、友人に会いにいく。一文無しでも目的地にいけるものなんだなあ……。
 夜、すんごい嵐だった。起きたら空がべかべか光っていた。

日
9月11日
月曜日

 昼にファミリーレストランで打ち合わせ。来月、予定していた旅行にいけなくなったので(涙・涙・涙)、少し余裕ができた。午後、へべれけになるほど飲みたいような衝動に駆られる。が、衝動のままに動いたりはしない。じっと仕事をする。

日
9月12日
火曜日

 午後にB社で取材一件。はじめて会う編集者の方が、近所にお住まいだった。
 その後、三人でごはんを食べにいく。フランス料理屋で、メニュウには見たことのないものばかり並んでいてうれしかった。かえるのミネストローネとか、エ スカルゴのラビオリとか。ごはんをともにしてくださった三人は、みなそれぞれ久しぶりなので、本当にうれしく、調子に乗って飲み過ぎた。でもたのしかっ た。締め切りひとつ。

日
9月13日
水曜日

 ああ、眠いわー。季節の変わり目って眠いわー。ちょろりと横になったら三秒もしないで眠れると思うわー。が、ここでもふんばって、衝動のままに寝たりはしませんことよ。
 生いくらがもう出ていたので、買って、いくら醤油漬けを昨日作った。ボウルに風呂の湯くらいの熱さのぬるい湯を入れて、生いくらをこのなかでほろほろほ ぐす。これ、昔、蛙のたまごで遊んだことを思い出す感触。田舎育ちなもので、蛙のたまごとか、巨大おたまじゃくしとか、アメリカざりがにとか、めだかと か、けっこう親しい子どもだったのである。それを煮きった酒、みりん、醤油をあわせたものに漬ける。この漬け汁にわさびをといてもおいしい。夜はそれでい くら丼にした。うまかった。締め切りひとつ。

日
9月14日
木曜日

 高脂血症の私だが、昼は、もうなんでもどうでも好きなものを好きなだけ食べるがよし、と決めている。それで、昨日ハンバーグ食べて、今日天丼食べて、天丼 食べ終わったら胃が痛くて、みんな、昼飯って何食べているの? と思った。好きなものを好きなように食べると、天丼スパゲティハンバーグカレー、と、子ど もの好きなものランキングみたいになるが、こういうのもちゃんとしないと、高脂血症、なおらないのかなあ。あーあ、白い魚とか好きな体になりたいなあ。
 午後に新宿で諸用をすませ、そのまま銀座にいって打ち合わせごはん。来年の話、覚えていられるかどうか(いや、覚えてなきゃいかんのである)。薫製チーズが、どぎまぎするほどうまかった。

日
9月15日
金曜日

 午前中、髪が伸びてやまんば状なので美容 院にいく。前に担当していた人がふるさとに帰ってしまったので、あたらしい人になった。あたらしい人と、髪型についての今後の相談をしたら、なんだか生き る勇気がわいてきた。おおげさですが。そしてきっと、自分ではうまくまとめられないのですが。
 締め切りふたつ。

日
9月16日
土曜日

 仕事場に必要な棚を買いにいって、「これにしよう」 と決めたのだが、その買うべき棚を見ているうちに、「この棚を買って、いったい何をしまおうというのか」という気持ちになり、とりあえず買うのをやめて仕 事場にいき、机まわりをじーっと眺めて、棚にしまうべきものをさがしてみるが、しかし、しまうべきものなんかない。棚が必要、というより、私は棚がほしい だけらしい。
 以前、某作家の人の仕事場がテレビに映って、そこに、縦長の棚があり、引き出しごとにものすごく整理されていたのを見て以来、この棚欲は育っているのだが、私にああした整理ができるわけがないのである。
 夜、祝いごとがあり、ずっといきたかった店にいって肉を食べる。うまかった。

日
9月17日
日曜日

 家の近所でまつり。御輿が出ている。
 昼、近所にできた新しいたこ焼き屋にいったところ、「いか焼き」というものが売っていたので、たこ焼きとともに買ってみた。関東圏の人間がいか焼きと聞 いて思い浮かべるのは、9割方、棒にいかがささった醤油味の食べ物だと思うのだが、関西圏の人のいか焼きは、お好み焼き状のものらしい。それで、この店で 売っていたいか焼きは、お好み焼き状のものだった。いかげそに、お好み焼きの生地と卵をのっけてぷしゅーと上から押してぺったんこにする食べ物。
 これ、はじめて食べたけれど、すんげーおいしい! ジャンクフードの王子さまといった感じ。関西ではこんなにおいしいものがあちこちで売られているんだろうか。それにしてもなんで関西の人はいかもたこも小麦粉でくるむんだろう。
 関西圏の知人によると、こちらでいか焼きとして通っているものは、「ぽっぽ焼き」というらしい。ぽっぽってなんだろうねえ。
 午後、表参道の青山ブックセンターで鏡さんとトークショー。鏡さんの本が出た記念トークショーなのだが、この本がすごい。CD-ROMがついていて、インストールするとホロスコープが出せるのだ。画期的。
 鏡さんは気をつかってくださって私にあれこれと質問をしてくれたのだが、きてくれたお客さんは、みなさん占星術にかなり高度な興味を持っている人々と見 受けられ、私のつまらん彼氏体質の話など聞きたくなかろう、と思いつつ、話した。もっと鏡さんの専門的な話を聞きたかっただろうに、すみません。
 その後、打ち上げ。参加者のホロスコープをみんなで読むという、すこぶるトークショーの内容にあった打ち上げだった。

日
9月18日
月曜日

 なんか最近、祝日の日付が昔とちがう。土日とくっつける傾向があるからだろうが、何がなんの日でいつが休みなのかもうよくわからない。体育の日だってもう 10月10日じゃないし、成人の日だって1月15日じゃないんだよね。かと思うと秋分の日は11月23日でいいの? とか、むずかしい。
 いったん家に帰ってからひとまわり年下の友人と飲みにいく。閉店間近にやってきたお店の奥さんの子どもがちょーーーーうかわいかった。ゴキブリが舞い込んできて大騒ぎの一幕もあった。飛ぶゴキブリ、もっのっすごい久しぶりに見た。

日
9月19日
火曜日

 午前中打ち合わせ、午後、電車を乗り継いで某大 学にいく。某クラブ所属の学生さんたちにお話を伺う。たいへん気持ちのいい、やさしい学生さんだった。これは小説の取材であるが、しかしその小説が果たし て書けるのかどうかわからない。でもあんなにすばらしい人たちにお話を聞けたのだから、書かねばなあ、と思う。一日が、800時間くらいあればいいのに。 それじゃ長すぎるか。

日
9月20日
水曜日

 午後、神宮前で取材。このあたり、きたことがないので、30分も前に着いたにもかかわらず、迷うわ迷うわ、結局電話して編集者の人に迎えにきてもらった。 こ洒落た喫茶店で取材を受け、終了後神楽坂に向かい、鏡さんと対談。あれ、なんだかついこのあいだも鏡さんと対談をした気が……。今回は、小説新潮に載る 対談で、私が好きな作家(故人)を幾人かあげ、鏡さんがそのホロスコープを匿名で読み、ホロスコープ分析を聞いてそれがだれだか私が推測してみる、という ようなことをし、これが、なんつーかすごくて、私はずっと鳥肌たちっぱなしでした。すごかったなあ……。締め切り4つ。

日
9月21日
木曜日

 ごはんを食べ終えて、「あーおなかいっぱい」と 思うまでの時間には、個人差があると思う。食べ終えた直後に「あーおなかいっぱい」になると、無駄食いをしなくてもすむ。思うに、私はごはん食べ終え、か ら、おなかいっぱい、まで、十五分から二十分くらいかかる。これは時間がかかりすぎである。その十五分乃至二十分のあいだに、だから、まったく食べる必要 もないものを食べたりして、気づくと、満腹で気分が悪くなっている。十五分〜二十分のあいだに何を無駄食いするかというと、カレー煎餅とかである。いやに なる。締め切りひとつ。

日
9月22日
金曜日

 コンビニの前を通りかかったら、手書きの看板が出ていて、「今なら熊のプゥーさんの絵ざらプレゼント!!!」と書き殴ってあったのだが、熊のプゥーさん、と書かれると、なんか邪悪な熊を想像してしまいませんか。締め切りふたつ。

日
9月23日
土曜日

 先日私を夢中にさせたいか焼きを食べて、恵比寿に向かう。今日は恵比寿でセールがあるのだ。友人のTっちが誘ってくれたセールで、私はデパートのセールで はないセールにははじめていったのだが、ひろーい卓球場みたいな場所に、靴とバックがずらーと並んでいた。セールといえば私が想像するのは肉弾戦なのだ が、ここはそんなこともなく、みなさんゆーったりと買い物していてちょっとほっとした。私も静かに興奮し、静かにたがをはずした。この先三年は鞄を買いま せん、と自らに言い訳をして、レジにいった。

日
9月24日
日曜日

 ビデオ屋にいったら編集者のSさんにばったり会った。同じ町にいながら、こうして会うのははじめてである。休日の日のSさんは、ごくふつうの若いお嬢さんのようだった。
 夜、今年漬けた梅干しを食べたら、私の梅干し史上ナンバーワンの出来だった。梅がよかったんだと思う。

日
9月25日
月曜日

 午前中に打ち合わせ一件、午後に……と、確認をしていて、大失敗に気づく。一年に一度か二度しかやらないダブルブッキングである。きれーいに重なっている。あわてて後から約束した方に電話をかけて、日にちをずらしてもらう。ああ本当にもう、すみませんすみません。
 壁際が鏡になっているエスカレーターに乗っていて、ちらりと自分の姿を見たら、はっとひらめいた言葉があった。いや、そんな言葉はいやだ、いやだ、とうち消したのだが、消えない。心のなかでこだましている。その言葉とは………豆タンク。
 私、なんか豆タンクみたいなかたちになってるんですけど。豆タンクってのが何かよくわかないけれども、なんかこう、「豆タンク」ってのがぴったりのかたち。こわいですねえ。つらい豆タンク。締め切りひとつ。

日
9月26日
火曜日

 午前中、近所の公園で写真を撮って、その後、仕事場に移動して取材。記事を書いてくださる方が、よく知っているTさんで、ひさしぶりに会えてうれしかった。
 月末が、ぎしぎしとこわい音をたてて迫ってくる。最近、31日まである月のありがたさが、骨身にしみてわかるようになった。30日しかなくて、しかもそ の30日が土曜日だったりすると、ちょっと悲劇的(私は締め切り前倒し派であり、土日は公休なので、29日に締め切りが繰り上がる)。締め切りひとつ。

日
9月27日
水曜日

 書評などで読まなければならない本が山積みだ が、今、それとはべつに、自分にある分野の課題図書を与えていて、これがまた読みはじめたらおもしろすぎ、するってえと書評用の本がどんどんたまり、書評 用の本もみなどれもおもしろそうなものばかり選んでいるので、読みたい読みものがあふれかえっている。仕事以外のほとんどの時間、読んでいるが、追いつか ない。電車も風呂場も台所も昼ごはん中もエレベーターのなかも、ぜんぶ読み時間にあててるんだけどねえ。こう、本を開いて、一瞬で中身が頭に入ればいいの に、とも思うが、あの速読ってやつはどうもやる気にならない。速読すると、自分にとってものすごおく心惹かれる一言、あるいは一文字、などが、まぎれて消 えてしまうような気がするのだ。ふつうは「を」であるはずなのが、「の」だったりすることで、文章の顔つきが、がらりと変わることってあるしねえ。「お お、ここで『の』を使うのか〜」としびれる瞬間ってのが、好きなわけですね。いや、速読がどんなものだか、よくわかっていないのだが。
 しかし、読んでも読んでも読みたい本がある、つーことは、幸福なことだと思う。

日
9月28日
木曜日

 夜、メールを見ていたら、またまた明日、ダブルブッキングをしていたことに気づかされ、あわあわしながら電話をかけ、時間をずらしてもらう。SSSさん (S社スーパーウルトラ編集者Sさん)は私を罵倒することもなくあちこちに電話をかけ時間をずらしてくださる。一年のうちにせいぜい一、二度しかしなかっ たダブルブッキングを、一週間のうちに二度も………。いかれてる。どないしよう。焦りつつ、羊羹食べて、気をしずめようとするも、しずまらず秋の宵。

日
9月29日
金曜日

 ダブルブッキングを1時間ずらしてもらっ たので、11時から取材、12時から取材、1時から所用、2時半から打ち合わせ、4時から所用、7時から肉の会、という、すさまじいスケジュールに。昼め しを食べる時間がない、と、昨日ダブルブッキングが明らかになった時点でわかっていたので、朝方ににぎりめしをたくさん買いこんで、11時前にむさぼり 食っておいた。が、そうそう貯め食いできるものでもなく、残ったにぎりめしを鞄に入れて、新宿に移動する。派手に転んで鞄からごろんとにぎりめしがでてき たらいやだなあ、と思いつつ、遅れそうになって走る。
 4時頃、気が遠くなるほど腹が減ったが、そして鞄にはきちんとにぎりめしが入っているが、電車のなかやホームや、つまり公衆の面前でにぎりめしを食べることが、どうしてもできなかった。こんなところが昭和の女っぽいよな。
 あと3時間、3時間で肉だから! と思いつつ、耐えた。しかし、これほどまでに空腹でのぞんだ肉が、思うように食べられなかった。そうだった。私はあまりに空きっ腹すぎると、いつもより食べられないのだった。肉の会、焼き肉は飽きたという声が。
 締め切り9つ。9つだとう? ちょっとおかしいんじゃないの。

日
9月30日
土曜日

 土曜だが仕事場にきて、仕事場を隅々まで掃除する。掃除をしているうち、身体ハイになってきて、スポーツクラブにいきたくなるが、時間切れで、帰る。身体ハイになったエネルギーを、夕飯づくりに注ぎ、蟹クリームコロッケを作る。
 クリームコロッケ系は敬遠していたのだが、今回は非常にうまくいった。パンクもしなかった。しかし、このところ、私の作る献立は塩辛い。無意識に塩辛くしているらしい。

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