アスペクト

つれづれ雑記 角田光代

作家・角田光代さんの日常を綴る日記が、アスペクトONLINEにて連載開始です!怒涛のような締め切りの数々や大好きな肉のこと。見たこと、聞いたこと、会った人、出かけていった旅のこと。角田さんの毎日のつれづれはここでしか、読めません!!

2006年10月1日〜10月31日

日
10月1日
日曜日

 恵比寿で友人の結婚式。久しぶりの人にたくさん会った。学生時代のサークルの人々だが、なぜかみな、子沢山。四人とか、三人とか、子どもがいる。父母になっても、しかしみんな、昔とあんまり変わらない。
「ちょっと、この席、昭和って感じよ」と、私と同期のNちゃんが言い、たしかに昭和って感じである。そう言うNちゃんは女優さんで、学生のころもだが今も たいへん美しい。考えてみれば、このサークルの面々とは二十年来の友人ということになる。すごいな。私の父親って、私が十七のとき死んだんだけど、つま り、父よりも長く知っている人たちってことになるわけだ。すごいな。
 すてきな式でござった。バンドの歌がよかった。二次会は出ず、羊を食べにいく。

日
10月2日
月曜日

 夕方運動をし、近隣にHさんと評論家Iくんと飲みにいく。さまざまな、本当にさまざまな話題が出て、非常にたのしかった。レモンサワーが薄く、ヤクルトの ように飲み干し追加を続けていたら、「あのう、ジョッキじゃなくてピッチャーもありますが」と言われた。ものすごいたくさん飲んだけれど、本当に薄くて、 酔わなかった。これくらい薄いといいですね、酔わなくて。
 締め切り4つ。今日までに出さねばならないゲラが、この土日をはさんだ締め切り地獄で(いや本当に地獄的だと思ったよ)、間に合わなかった。うえええええええええん。

日
10月3日
火曜日

 あれっ、いったいいつ10月に………! 衣替え、したのかしていないのか、自分でもよくわからない。毎日暑いのか涼しいのかもよくわからない。
 昨日までに出さなければいけなかったゲラを、終日やる。やる。肩がぱつんぱつんになる。私、じつはあまり肩こりというものを意識したことがないのだけれど(でも、触る人はみんなひえー、と言う。意識しなくて幸福らしい)、今日はさすがにぱつんぱつんだな。
 へべれけになるまで泥酔したい心持ちになるが、しかし、またもやそうせず、おとなしく過ごす。

日
10月4日
水曜日

 夜に、仕事場で会合があるので、その準備のため、それから日々の地獄疲れを癒すため、今日はいちにち、いっちっ文字たりとも書きませんことよ、と決め、午 前中買い出しにいき、昼ごはんもそこそこに準備にとりかかり、しかしとりかかったものの、何やらむくむくと不安になる。いっちっ文字たりとも書かなくて、 いいのけ? いいのけ? と、心のなかでだれかが呼びかける。こういうのなんていうか知ってる。ワーカホリックというのだ。もしくはただの小心もの。
 その声に負けて、400字くらい、書いた。
 夕方からの会合は夜まで続く。深夜まで続く。久しぶりに焼いたピザが、思いの外うまくいった。夜が更けるにつれ静かにもりあがり、たのしかった。

日
10月5日
木曜日

 午後に取材一件。この取材のインタビューで、 「酒をたくさん飲めるのですよね」という質問があった。私は昨今、なんつーか瓶みたいにするする飲む人ばかり見ており、そういう人に比べたら私なんかほと んど下戸に近い状態だよなあ、と思っていたところだったので、「飲めません」と答えた。飲むの好きだけど、ほんと、飲める人が瓶だとしたら私なんかスト ローくらいだと思う。
 雨降りですねえ。

日
10月6日
金曜日

 台風みたい。コンビニエンスストアの入り口に、折れ曲がった傘がたくさん捨ててあった。

日
10月7日
土曜日

 今日は成城学園前にあたらしくオープンした三省堂でサイン会なので、財布を持ったか重々確認して家を出る。小田急線に乗り換えて、時間を確認し、よし五分 前には着くな、と思っていたところ、下北を通りすぎた電車が、成城学園前に止まらない。ひえええええええええ、と遠ざかる駅を車窓から見送る。車内に貼っ てある路線図を確認すると、どうやら私が乗ったのは快速急行で、その急行は下北沢から新百合ヶ丘までいく。ええええっ!! と思うが、遅い。みるみるうち に電車は多摩川を通過。ああ、遅れてしまう、遅れてしまう、と心臓がどきどきして、本が読めなくなる。多摩川を超えると、とたんに遠出をした気分になるの は、私が神奈川県民だからだろうか。
 新百合ヶ丘から慎重に反対車線に乗る。これがまた急行だったら洒落にならないもんね。しかしさあ、下北の次が新百合ヶ丘ってすごい距離だよな。私のように乗り越す人、けっこういるのではないか。いや、みんなそんな阿呆ではないのか。
 二十分遅れて約束の場所に着き、ラジオ取材を受ける。まだどきどきしている。
 三時からトークショーとサイン会。やたらにでかい真新しいビルの、吹き抜けになったところでトークショーなのだが、このビルが気になって気になってうまい受け答えができなかった。
 サイン会にきてくださった方々、本当にありがとうございました。都心でやるサイン会とちがって、家族連れの方が多くのどかだった。夜は焼き肉。

日
10月8日
日曜日

 掃除のあと、近隣の繁華街にいき、コードレスのこてを買う。こて、つまり髪をくるくるさせたりするやつです。髪を自力でくるくるさせられるかはさておき。 それから、年末まで困らんっちゅうくらいの入浴剤を買う。風呂嫌いの私は、入浴剤と持ち込み本でだましだまし風呂に入っている。入浴剤の入っていない風呂 は、風呂嫌いには耐え難く退屈なのだ。

日
10月9日
月曜日

 今日が体育の日。電車は空いており、町は静か、メールはほとんどこず、私は仕事。
 私が通っていた小学校、毎年10月10日が運動会だったけど、今はどうなってんだろう。私は幼少時猿だったので、騎馬戦が得意だった。かけっこもなかな か得意だった。高校二年のときは、猿ではなく牛のようになっていたので、陸上競技会で走っているだけでみんなに驚かれた。
 しをんさんの新刊を読んでいたら、走りたくなって、ジムのランニングマシンの速度をちょびっと上げてみた。しかしすぐにつらくなり、元に戻した。カレイを買って夜はそれを揚げる。静かだなあ、今日。

日
10月10日
火曜日

 元体育の日。電車はふつうに混んでいる。
 午後に近くの飲み屋さんで取材。おいしいおやつをいただく。また魚を買って帰る。魚って、嫌いなわけじゃないけど献立面倒だよな。締め切りひとつ。

日
10月11日
水曜日

 じつにひそやかに、髪型を変えてみたのだが、二 週間近くたっても、だれにも何にも言われず。こてとか買って、朝、私にしてはながーく髪と格闘しているのだけれど。そのせいで家を出るのが遅れ、前より十 分ほど遅い電車に乗っているのだけれど。でも、髪型の変化を指摘してほしいほどの乙女心があるわけでもないし。って書いていたら、なんだかいじましい気持 ちになってきたので、やめよう。夕飯連続三日魚。えらい。締め切りひとつ。

日
10月12日
木曜日

 ああもうっ、眠くてたまらんっ! というときの対処法として、私は以下のようなことを思い浮かべてみます。
(1)仕事をとりあえずやめ、部屋を掃除することで眠気を霧散させる
(2)仕事をとりあえずやめ、運動をして眠気を霧散させる
(3)仕事はとりあえずやめず、集中力が眠気を霧散させるまで待つ
(4)仕事をとりあえず中断し、コンビニで何かしょっぱからいものを買ってきて食べ、眠気を霧散させる
(5)意のままに眠る
 もちろん、(5)がいちばん心地いいのはわかっているが、そんなことばかりしていると、私はたぶん、一日15時間睡眠になり、仕事時間が2時間くらいに なり、それでは自分で自分の首を絞めることになる。(1)と(2)は、かなり生産的な対処法だと思うが、いかんせん、生産的なものはことごとく面倒くさ い。ていうかしんどい。(4)は、一時しのぎにはなるが、しかし腹がくちるとさらに眠気が倍増するので、あまり効果的とはいえない。(3)は、動かずその 場で耐えればいいから身体的には楽だが、しかし集中力が眠気を上まわるというのは、五十回に一回くらいしかない。
 それで、ちょっともうどうしようもなくなって、運動しにいく。
 運動後、都内の秘密基地みたいなところにいって、粉大会。これはかつて、関西のいか焼きに感動した私が「いか焼き、んめーんめー」と言っていたところ、 たこ焼きマスターが(私にはたこ焼きマスターが二人いる。このあいだのマスターではないほうのマスター)、いか焼きたこ焼き大会を計画してくれたのであ る。しかし、いか焼きをさあ、自分で作ろうと思うって、すごいよなあ、ほんと。
 たこ焼きといか焼きは、驚愕のうまさであった。そこに、なんと手打ちうどんも登場。これもまたすばらしかった。粉ものって、なんでも既製品より作ったほ うがおいしいような気がする。粉もの大会の途中、なぜか、「あと三日しか命がないとするなら、ごはんをたべるか、セックスをするか」という、なんだかよく わからない二者択一問題が出され、みな真剣に考えていた。私はその二者択一が成り立つことが不思議なくらい、ごはんが大事だと思うが、みな、真剣に考えて いるのがこれまた、不思議であった。人はいろいろである。たのしい会で、たのしい気分のまま家路についた。

日
10月13日
金曜日

 午前10時から打ち合わせだとばかり思っていたら、10時を過ぎてもなかなか相手があらわれず、確認したら11時だった。逆じゃなくてよかった。
 昼過ぎに仕事場を出てお茶の水にいき、ずっといきたかったエチオピア(カレー屋)にいって、知らないおじさんと同席しながらカレーを食べる。カレーの辛 さが70倍までできると書いてあったが、はじめての店で、こわいので、10倍にした。おいしかったが、汗をだらだらかき、化粧が見事にどろどろに。
 どろどろのまま山の上ホテルにいき、一階の喫茶店で、1時半から打ち合わせ、2時から打ち合わせ、3時から打ち合わせ、4時から打ち合わせ、で、4時半 すぎに打ち合わせ終わり、すると文藝賞の準備で河出の方々がたくさんみえたのでいっしょにお茶を飲み、5時半に二階の控え室で文藝賞のお二方に会う。ひと りは高校生のお嬢さんで制服姿がまぶしかった。ひとりは大学生で、昨年、私がちょろっとおじゃました授業を聞いていてくださったそうである。選考委員の人 たちも順に登場し、6時にそろって会場へ。いつものことながら、激こみ。
 二次会、三次会、とあり、気がついたら、私は受賞者の人よりも遅くまで残って飲んでいた。それでも、ほかに残っている人たちよりは先に帰った。文藝の パーティはいつも華やかなのにアットホームで、いい賞だなあ、と毎回思う。とくに私は、デビューした雑誌が今はもうないので、なんだかうらやましくなるの である。締め切りひとつ。

日
10月14日
土曜日

 昼まで寝て、起きて、新宿に買いものにいく。家具屋に置いてある、パソコン用の座り心地のいい椅子(11万円!)に座ったら、本当に座り心地がよかった。私は現在、たいへんに座り心地の悪い椅子をあえて使っているが、ああいういい椅子だと、疲れないのかな。
 近所に戻って、魚の居酒屋にいくが、満席。このところいつも入れない。それでその隣の壷ホルモンの店に……ああ、そういや、前も魚屋に入れなくて壷ホルモンだったんだ。

日
10月15日
日曜日

 自転車にひさしぶりに乗る。携帯電話に入れるちっこいプラスチックのものを買い、晩のおかずを買う。携帯電話にそのちっこい何かを入れると、携帯電話がウォークマンのようになる。なんだか世のなかすごいよな。仕組みがぜんぜんわかんないけど。

日
10月16日
月曜日

 午後から取材、そのままみんなでボクシングジムに移動して取材。ジムは、高校の課外授業の日だとかで、女子高の娘さんたちがわんさといた。若い熱気がむんむんしていて、華やかである。このジムがこんなに華やかなのを、七年目にしてはじめて見ました。
  取材が四時半ころ終わり、そのまま仕事場に帰ってもすぐ終業時間なので、直帰することにした。以前旅行先で買ったフォアグラ缶がまだ残っており、はやく使 わなきゃなんとなくやばいような気がしてきたので、フォアグラ入りハンバーグを作ってみる。いや、なんのことはなく、ふつうのハンバーグ生地にフォアグラ を混ぜこみ、あまったフォアグラの切れっ端をハンバーグの真ん中に詰めて焼く、というもので、まあふつうにおいしかったが、食べている最中、信じがたいほ どの満腹感に襲われ、食後横になったきりしばらく縦になれなかった。
 締め切りひとつ。

日
10月17日
火曜日

 夕方、馬場で一件取材。馬場のルノアールにはじ めて入った。なんだかそのたたずまいに感動した。取材が思いの外はやく終わり、馬場を少し散歩する。馬場って、しかし、すごいよな、なんか。店という店 が、若者に向けて開かれているようなところが。エスニック系のごはん屋がずいぶん増えている。
 その後、古書現世にいき、B社の方々と落ち合い、向井透史さんに会う。ノラ(古書現世の看板猫。レジも打てます。パソコンもできます。)がいないので、 どうしたのかと思っていたら、レジの後ろの猫おこたみたいなところで丸くなって寝ていた。我慢しきれずに撫でまわしたら、向井さんが猫おこたから出してく れた。ノラ、もう、かわいすぎる。たくさん撫でて、手のひらをなめてもらって、仕事のしすぎで枯れすさんだような心が癒された。今日知ったのだが、ノラは もう二十歳なんだって。すごい長寿だ。てっきり、若いお嬢さんかと思っていた。  七時からB社の編集者の方三人と、向井さんで、とんちゃんにいく。とんちゃんは、馬場の内蔵系焼き肉屋で、私は数年前にここではじめて内蔵を食べ、以 後、内蔵好きになった。刺し盛りがうまい。向井さんが72年生まれで、B社の編集者Sさんも72年生まれ、ということがわかり、みんなの知っている72年 生まれの人を言い合ったら、なんていうか、ものすごくバラエティに富んでいて驚いた。豊かな年なんだなあ。私の知っている72年生まれは、長嶋有さんと、 古本居酒屋の店長Kさん。
 途中、Fさん夫妻が登場し、Fさんにはものすごーく久しぶりに会えたので、心臓が早うちするほどうれしかった。とんちゃんを出て、不良のたまり場のよう なバーにいき(実際に不良がたむろしているわけではなくて、イメージとして、不良がたまり場にしていそうなバー)、飲む飲む。すんげえたのしかったのだ が、朝がはやいので、泣く泣く帰る。バーで何を飲んだのか、バーを出たらもう覚えていなかった。  締め切りひとつ。気がつけばまたしても、ずしずしと音をたてて月末が近づいてくる。ノラーッ(心の叫び)。

日
10月18日
水曜日

 午後、椿山荘で打ち合わせ。椿山荘って結婚式でしかきたことないけど、それで結婚式のときって視界が限られているけど(結婚する友人・招待客の友人しか見 ない)、こうして打ち合わせできて、あらためて景色を眺めてみると、すんげえ広いところですね。都内じゃないみたいね。
 2時間の予定であけておいた打ち合わせが、1時間もせず終わり、しかし次の打ち合わせが2時間後なので、動くに動けず、みなさんが帰ったあと、本を読む。余白の時間、なんとなく贅沢な気分。
 その後移動してK社にいき、来年の本の表紙のコピーを見せてもらう。とてもすてきでうれしい。この本は海外で出るのだけれど、「でも、こういう仲間はず れの感覚って外国の人にもわかるかなあ」と外国人のMさんに訊くと、いじめや仲間はずれは日本ほど社会問題化していないけれど、じゃあまったくないかとい えばそうでもないから、まったくわからないってことはない、だからだいじょうぶ、と言ってもらえて少し安心する。
 それからさらに移動して表参道方面にいき、総勢七人で来年のことの打ち合わせ。来年って先だなあ、と思いそうになるが、ちょっと寝て起きたらもう来年なのだ、きっと。
 打ち合わせ終了が十時ごろ、近くのバーに移動してほんのちょびーっとだけ飲み、先に帰る。先に帰ってばっかり。かなしい。

日
10月19日
木曜日

 子どものころ、好き嫌いがたいへん多く、酢の 物って食べ物も私は食べずに成長したが、今日、すっぱいものとタコが食べたくなって、わかめとタコとキュウリの酢の物を作ってみたら、これ、たいへんにか んたんなんですね。道理で、父の酒のつまみとしてよく出ていたわけだと思った。

日
10月20日
金曜日

 今日さあ、打ち合わせも取材もなくって、スポー ツクラブも休みだから、七時半から五時まで、ずうううううっと仕事してみたら、やっぱりさあ、人の集中力って限界があるなあって思った。たぶんね、この 「ずうっと」てのがいけないと思う。四時間やって、一時間くらい遊んで、また二時間やって、遊ぶか昼寝するか走るかして、また仕事、というふうにしない と、なんていうか、水分が体からなくなってくような感じね。
 水分のなくなった体で、K夫婦と飲みにいく。K夫が半年ぶりくらいに休みを取れたらしいので(三十代後半の人生って過酷だなあ。あ、Kくんは四十歳に なってるかも)、ひさしぶりに飲むのである。私も、私用で飲むのはひさしぶりであることよ。本当に、最近、友人と飲むために飲むってことが、一年に二回く らいしかできないのである。魚を食べ、たくさん飲み、風呂の掃除や金魚の話をして、たのしかった。
 締め切り8つ。8つってさあ、どうよ、ほんとうに。ノラーッ(心の叫び)。

日
10月21日
土曜日

 午後、家具屋やデパートを見て歩き、引っ越し一周年を祝うため近所の寿司屋にいくも満席、またしても焼き肉。たしか、去年引っ越した日も、蕎麦食わずに焼き肉食ったのだった。

日
10月22日
日曜日

 運動をさぼって近くの繁華街を歩く。前に見て、ほしかった棚が、先週なくなっていたのだが、今週見たらあったので、あ、あったと驚きながら買ってしまっ た。棚にしまうべきものが、見あたらないというのに……。棚を活用できますように。棚を活用できれば、きっと、足下に置いてあるさまざまなものがすべて消 えてくれる。

日
10月23日
月曜日

 朝早くに吉祥寺に集合して、撮影。あいにく、公 園に着くころには雨がけっこう降ってきた。この撮影には、パピヨンというちいさな犬もいっしょで、犬好きの私にはたまらなくうれしかった。犬のピースちゃ んはおとなしくて、デザイナーさんの言うことをちゃんと聞き、大きな犬が通ってもまったくかまわず、すてきだった。でも、最後のほうは雨のため、ぶるぶる 震えてかわいそうだった。
 喫茶店に移動しても、ピースちゃんは本当におとなしく犬バッグのなかに入っていて、だれもそこに犬がいるとは思いだにしなかったろう。かわいかったなあ、ピースちゃん。
 夕方、東京會舘にいく。今日は講談社ノンフィクション賞とエッセイ賞の授賞式があり、ノンフィクション賞の沢木耕太郎さんとエッセイ賞の野崎歓さんにお 祝いを言いたくておじゃまする。選考委員の挨拶が、もんのすごおーく長くて、興味深い話ではあったのだが、途中で気が遠くなりかけた。授賞式が終わりパー ティに移行すると、会った人みなが挨拶についてコメントしていたので、みなさんにとってもたいへんに印象深かったのだろう。
 パーティ会場に蛍の光が流れるころ、飯田橋に移動。今日はR社主催の(上記とは別の)お祝いの会があり、そこに途中参加。すでにお祝いの会は二次会のカ ラオケになっていた。そこからカラオケ屋を移動しつつ五時まで飲む。朝まで飲むのは一年に一度くらいだなあ、さみしいことに。締め切りひとつ。

日
10月24日
火曜日

 朝に寝たので9時半起き。起きたらすでに仮死状態だった。二日酔いと寝不足で自分の行動があやうい感じ。あやういまま仕事場にいき、原稿を送り、メールの 返事を書き、化粧をするも、なんだか白塗りの人みたいになる。「これはいったいどういうことだろう……」と、鏡を見たまましばらく考え、しかしこのまま出 歩いたら変質者みたいなので、ティッシュで顔を拭い、そこで時間切れ、仕事場を出て神楽坂のジョナサンに向かい、打ち合わせ一件。はじめて会う人との打ち 合わせだったのだが、なんだかはじめて会ったような気がしなかった。
 その後、S社にいき、鏡リュウジさんと二人で、二時から4社の取材を受ける。「12星座の恋物語」という、ミスティ誌で連載していたものが本になったので、その取材。インタビューで鏡さんの天才性をかいま見る。
 取材後、以前テレビの料理番組でお世話になったシェフ菊池さんのレストランにいき、打ち上げ。菊池さんは鏡さんとも知り合いだった。このレストラン、こ ぢんまりしていて、外国にぽつんとあるおいしい店のような感じで、とてもすてきだと思う。皿の模様を見ていたら、収録のときのことを思いだした。テレビは 不慣れなので、私は心細く、じっと皿を見つめていたから、皿の模様がなんだか親しげに見えるのだ。
 料理が、泣けるほどおいしかった。菊池さんって私と同い年なんだけれど、すごい人だなあとしみじみ思った。メインはもちろん羊にした。SさんとMさんは 内臓料理をメインにしていた。「好物は内臓」と、三十代になって堂々と言えるような話が、興味深かった。たしかに、二十代の娘さんが「好物は内臓」っての は、何かこう、「いいのかそれで」と言いたくなるような何かがあるよなあ。締め切りひとつ。

日
10月25日
水曜日

 ジムで私と同い年のLさんが息子さんと対戦していた。すごいな。
  ジム後、牡蠣を買いにいったら売り切れ。カレイにしたところ、鮭をおまけにもらった。この魚屋さん、駅から少し歩くが、二人組のおじさんが親切で魚がおい しい。おじさん曰く「今年はいい牡蠣は高く、安い牡蠣はちっちゃい」とのこと。そういえば、牡蠣についてのニュースを少し前に読んだな。
 野球なんかまったく知らないのに、日本シリーズ(っていうんだっけ、日本一を決めるやつ)を思わず見てしまう。締め切りひとつ(締め切り9つってのも地獄的だが、この、一日一個ずつ締め切りが延々続くってのも、ボディブロウのようできついです。ノラーッ)。

日
10月26日
木曜日

 朝、浜松町にいき、文化放送で録音。えーと、「生本」という雑誌に連載しているんですが、「生本」と文化放送が何かコンビを組んで、ラジオ朗読番組をやる らしいです。それで私は「生本」の会社から出た「いつも旅のなか」という本の一節を朗読してきたわけです。朗読中、空腹のため腹がごろごろ鳴って困った。
 文化放送のビル、真新しくてどこもかしこもぴかぴかだった。そしてずーっと館内にラジオが流れていた。これが途切れるとみな、どきっとするそうだ。
 先だって8つ原稿を送ったのだが、届いたという声を3つくらいしか聞かなくて、こわい。届いているよね届いているよね届いているよね。ひょっとして8つ送ったのは、私の白昼夢だったのかも。
 夜、野球見る。何気なく見ていたらちゃんと見ちゃった。日ハムのダルビッシュが、K社の担当の若手編集者Sさんに似すぎていて、なんだか知り合いががんばっている気がして、ダルビッシュが出るたび、がんばれよう、と親のような気持ちで応援してしまった。
 そして後半、ちょっと心を動かされて泣いた。この私が、野球を見るようになるとはねえ。野球見て泣くとはねえ。

日
10月27日
金曜日

 午後、K社にいく。夕方から新人賞の授賞式がある。この新人賞は長編の賞で、四百枚も書かなきゃいけないんだからそのことがもうすごいよなーと思う。ダル ビッシュがやっぱりダルビッシュに似ていた。授賞式後、みんなで近くの居酒屋にいく。なつかしい雰囲気の居酒屋だった。その後、銀座にいき、泥酔している わけでもないのに私はグラスを割り、たいそう恥ずかしかった。自分で酔っていないと思うときに、だれが見ても酔ったようなことをしでかしてしまうと、なん だか情けなく悔しい。一時ごろ、先に帰る。たのしい会だった。受賞者のお二人、本当におめでとうございました。締め切りひとつ。

日
10月28日
土曜日

 二日酔いで、昼まで寝る。月曜日までのゲラを自宅でやる。ああ、休日仕事。
  夕方、近所の肉屋にいって牛のたたきを買ったところ、不必要にかっこいいおにいさんが、「この時間にたたきが残っているのはめずらしいんです。明日休みな ので百円引きだし、どうですか、二パック、三パックと買われては」と笑顔で勧める。私のわきにいたおばさんが「本当にめずらしいわよねえ、この時間までた たきがあるのは……」と真顔で言っている。思わず「買うべきか」と思ったが、でも、二パックも三パックもたたきを食べられませんよ。このたたき、本当にお いしかった。別パックになっているさらし玉葱がとくに。

日
10月29日
日曜日

 掃除し、洗濯し、運動し、餃子を作る。それだけで日が暮れる。

日
10月30日
月曜日

 10月も終わりだなあ。ひしひしと年末だなあ。
  昼に、大トロ丼(どことなく胡散臭い大トロではあった)を食べた際、お盆に、丼と、みそ汁と、漬け物と、なぜか、生卵がのって出てきた。この生卵をいった い何と組み合わせばいいのか、私にはさっぱりわからず、でも漬け物のはずはないし、みそ汁のはずもないし、だとすると丼だよなあ、と思い、しかしじゃあど のように組み合わせるか?と悩みに悩み、卵に醤油といてそこにトロをくぐらせて食べたりしたんだけれど、イマイチそうする意味がわからず、結局、面倒に なって卵を丼にかけた。それでもやっぱり、生卵の存在意義がよくわからなかった。カウンターの端っこに、同じく大トロ丼を注文した人がいたので、生卵の活 用法をじいーっと見てみたが、遠すぎて見えなかった。だれか解答を知っていたら教えて!
 あっ。今気づいたけれど、この日記、ひょっとして一年たった? 一年、10日くらいの感じだけど。

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