アスペクト

つれづれ雑記 角田光代

作家・角田光代さんの日常を綴る日記が、アスペクトONLINEにて連載開始です!怒涛のような締め切りの数々や大好きな肉のこと。見たこと、聞いたこと、会った人、出かけていった旅のこと。角田さんの毎日のつれづれはここでしか、読めません!!

2007年5月1日〜5月31日

日
5月1日
火曜日

 はあー、帰ってまいりました。ひさびさの旅行でございましたことよ。何が驚いたかって英語がてんで通じなかったこと。モロッコより通じなかった。
 帰ってきたらゴールデンウィークでした。静かなものです。しかし締め切りはあるわけだ。で、締め切りひとつ。あっというまに通常営業。ねえねえ、ゴールデンウィークってみんな何すんの? みんな何してんの? 知りたいー、ああ知りたいーっ。

日
5月2日
水曜日

 かつてスリランカ旅行中に知り合った、筋金入りバッ クパッカーのアメリカ人Kさんが日本にきたので、中野でお茶を飲む。時間が余ったので、Kさんに中野を案内してもらう(なぜ?)。この人、きっと私より東 京のことをよく知っているであろう。メキシコいってた、と言うと、「英語ぜんぜん通じなかったでしょ? どうやって旅したわけ?」とKさんは言っていた。 そうか、常識であったのか。「あなたはメキシコを旅するときどうするわけ」と訊き返すと、「ぼくはスペイン語がしゃべれる」とのことであった。「なんでア メリカとメキシコって隣なのに、あんなに英語が通じないの」と質問すると、「どこでも英語が通じると考えるほうがおかしい」と、いうような答えであった。 私、今までずっと旅していて、電気の通っていないような田舎でも、会話がまったく成立不可だと、だれかがどこからか「村で唯一英語をしゃべれる人」を連れ てきて、それでなんとかなってきたので、そういうもんだと思っていた。経験が偏っていたんですね。これからは心しますよ。
 豚とキャベツを盛大に煮る料理を作った。ゴールデンウィーク中って、なんだか盛大な料理を作りがち。イベントっぽい感じに参加したい、気持ちのあらわれであろう。

日
5月3日
木曜日

 電車がら空き。通りも静か。みんな、海や山に いっているのだろう。昼に魚屋で売っていた鰹を夕方買いにいったらもう売り切れていた。それでかき揚げを作った。私はたいていの料理は難なく作れるが、天 ぷらだけはどうも難しい。ボクシングの試合を見て、ちょっと泣きそうになった。ウィラポンの顔を久しぶりに見ることができてうれしかった(何年も前の録画 だが)。

日
5月4日
金曜日

 美容院にいったら、渡された髪型サンプル本がみごとに中年女の本で、ほんのちょっぴりへこんだ。自分がおばはんである、という自覚はあるが、なんていうか、もうあの、かわいい女の子たちの髪型から選ぶのはおかしいのであるな、という気づきに、へこんだのであろう。
 ほんのちょびっとだけでもゴールデンウィーク気分を味わいたくて、夜、パキスタンカレーの店にいってカレーを食べた。旅の最中に寄るような雰囲気の、かわいらしい店で、しかもカレーはうまかった。ナンを食べ、ああ私はナンが狂おしく食べたかったのだ、と気づいた。

日
5月5日
土曜日

 繁華街にいったら夏場のビーチのような混みよう。久しぶりに映画館で映画を見た。映画を見ると、やっぱ映画っておもしろいなーと思う。
 夜、駅で待ち合わせて、年若いKさんと、Kさんのお友だちの、やはり年若いIちゃんとごはんを食べにいく。ものすごく久しぶりにいく店だったが、ていねいな料理ばかりでおいしかった。私にはめずらしく野菜中心の店。

日
5月6日
日曜日

 連休最後の気分を味わいたくて(連休なかったくせに)すき焼きにする。この三カ月ほどたまっていた雑務をこなしていたら、眠る時間になってしまった。ああああ、ゲームもできなかった。何ごともためてはいけない。

日
5月7日
月曜日

 朝の電車がまたしても混みはじめてまたしても 「おかえりー」気分に。午前中に歯医者さん。虫歯がどんどんなくなっていくことである。五本あった虫歯がもう一本だよ! 昔八本の虫歯を治療するのに二年 くらいかかったことがあるが、あれ、なんだったんだろう。私の今いっている歯医者さんは、さくさくと進めてくれるので、五本の虫歯が半年でなおるであろ う。
 午後、S社のKさんとカメラマンのSさんがやってくる。このSさんの恋の話を、四年前くらいにさわりだけ聞いただけになっていたので、続きを訊くと、ま るで小火のような恋であった(いや、そもそも恋だったのかもよくわからない)。Sさんには、できればこの先も、このような連続恋話を持っていてもらいたい ものだ。夜また雑務。ひーん。締め切りよっつ(連休明けにいきなりよっつってどうよ?)。

日
5月8日
火曜日

 ふつうに仕事をして、夜、家の近所で打ち合わ せ。H社の方と、イラストレーターのTさん、事務所のOさんと三人で飲む。Tさんがイタリアのボスのような(へんなたとえだけど)かっこよさだった。惚れ そうであった(すでに惚れているのかもしれん)。店を出て、駅へ向かう道すがら、雰囲気のいいバーがあったので、四人でなし崩し的にそこに入って一杯だけ 飲んだ。このバー、不思議な雰囲気のよさで、私も以前、前を通りかかったとき入りたくてうずうずしたことがある(そのときは満席だった)。四人で飲んでい たら、おもてをS社Kさんがふらふらと通りかかり、呼んで、五人になって飲んだ。「私たち幸せそうだったでしょう」とKさんに訊くと、幸せそうだったと 言っていた。この店、本当に、外から見ると、なかで飲んでいる人がしあわせそうに見えるのだ。この店を作った人は、外から見える幸福感にとても敏感な人だ と思う。締め切りふたつ。

日
5月9日
水曜日

 むちーっと仕事。四時ごろ肩がぱんぱんになる。座りすぎてじりじりしてきたので「そら豆でも買いにいくかなー」と思ったものの、気がつけば仕事をしていた。涙ぐましいねえ。夜は初鰹。締め切りが、なぜか納豆の糸のように切れず、ふたつ。

日
5月10日
木曜日

 スポーツクラブ休みで仕事。午後に打ち合わせにきてくださったB社Oさんと、ミュージシャンという人種はいったい何ものであるのか(なぜ女子は狂ったように彼らに惚れるのか)、という話で盛り上がる。
  旅行中は、なんだか乾いた食べものばっかりで、ああ湿ったものが食べたいと切望していたのだが、もうすっかり旅行気分も薄れ、近くのパン屋のパンを全種試 してみたくなり、全種ではないがけっこうな数のパンを買って帰り、パンとサラダとシチュウという旅先のようなごはんにしてみた。しかしパンは夜に腹減る な。納豆状の締め切りが、まだ途切れず、ふたつ。

日
5月11日
金曜日

 いろんな点検や交換の人がきた一日であった。スポーツクラブの受付で同業者のHさんに会い「あっ、風呂に入らない作家だ」と言われる。運動後、実際風呂に入っていなかったので、ちょっと照れた。締め切りふたつ。どうしちゃってんの?!

日
5月14日
月曜日

 午前中、テレビの人々が取材にくる。全員関西出身の人で、冗談を言わなければ気が済まない関西の人というのは本当にいるのだな、と妙に感心した。
 東海林さだお先生のエッセイを読み、らっきょうの塩漬けの話が出ていたので、まねして作ってみたら、こいつがべらぼうにうまかった。一日でできてしまうし、こりゃあいいね。土つきのらっきょうを洗ってむいて、塩まぶして重石するだけです。また夜漬けた。

日
5月15日
火曜日

 もさもさと仕事をする。ゴーヤチャンプルーを作る。締め切りひとつ。

日
5月16日
水曜日

 早朝、東京駅から新幹線に乗り、名古屋で乗り換えて、伊勢にいく。B社の取材の旅である。外宮の池などで写真を撮り、伊勢神宮の方に外宮を案内してもらう。その後おかげ横町にいく。
 小学校のときの修学旅行が三重県であった。が、何をしたのかぜんっぜん覚えていない。伊勢神宮にいかなかったことだけは覚えている(宗教校だったの で)。伊勢神宮は二十代のころにいった記憶があるが、あんまり定かではない。しかし記憶にかすかにある伊勢神宮よりも、今回の伊勢神宮ははるかにおもしろ く、ちょっと興奮した。おかげ横町のたのしさよ!おかげ座のなかを見て、生まれ変わるなら江戸時代がいいと思った。
 夜は肉の店にいき(「豚捨」というおいしい店があると、B社の内臓部部長にずっと前に聞き、身もよじらんばかりに憧れていたのである)、ああ伊勢でも 肉、と思いながら肉を食い、うまさに絶叫し、ホテルに帰る。ホテルに帰って飲みながら明日の打ち合わせをし、部屋のあるフロアに戻ったとたんめまいが。絨 毯敷きの廊下を這うようにして部屋に帰り、倒れるように眠る。少し眠ったらふつうになったので、バスに乗って風呂へ(風呂が離れにある)。

日
5月17日
木曜日

 あいにくの雨。今度は内宮を案内してもらう。雨で緑がきれいねえ、とのんきに言っていたら、雨が次第にざんざん降りに。私が長年抱いていた伊勢神宮の謎が、昨日今日でだいぶとけた。
 神宮を出たら晴れた。おかげ横町の喫茶店でコーヒーを飲んでいたら、喫茶店のお嬢さんが私の本を読んでいると言ってくれて、もんのすごくびっくりした。ありがとうございます。
  おかげ横町には、つばめがたっくさんいて、あちこちのお店の軒先に巣を作り、親鳥が子育ての真っ最中だった。私の生まれ育った家も、毎年つばめが巣を作り にきていて、子どもがいっせいに口を開けて餌をねだるところを見るのが大好きだった。今回もまたしばし見とれた。かわいいねえ、雛鳥も親鳥も。
 コロッケや焼き魚やだんごを買い食いしまくり、宇治山田駅から帰る。早めに東京に着いたので、仕事場によってちょこっと仕事する。夜は疲れたので外食。

日
5月18日
金曜日

 午後に取材一件。伊勢で買ったうるめいわしの干物を大量に焼いて食べる。締め切りふたつ。

日
5月19日
土曜日

 高齢温泉チームと蕎麦屋にいく。この蕎麦屋の料 理が何を食べてもおいしく、大感激した。卵焼きがでかくて甘くないのもいい。しかし何よりこの店の冷酒が、きりりと冷えてさっぱりしていて、本当においし かった。総勢9人で2升くらい飲んだのではないか。でもちっとも悪酔いしない。ほろほろと気持ちよくなるだけ。蕎麦もたいそうおいしいので大盛りを頼む。 本当の大盛りであった。夜になってもおなかが減らなかった。

日
5月21日
月曜日

 夕方、初対面の方と打ち合わせ。来月旅行にいく ことになるかも、というような話。いきたいけど無理だなあ、と思っていたが、話しているうち、俄然いきたくなってしまった。それで喫茶店を出るときは、な んとしても日程を空けようと決意するに至った。すごいな、敏腕の人たちだなあ。
 その後近くのイタリア料理店でK社のYさん、Kさん、Dさんと報告会&打ち合わせ。このレストラン、最後にいったのは三年ほど前で、たいへんおいしく、 店も混んでいた記憶があったのだが、今日はがら空きで、最後まで貸し切り状態だった。なぜ?そして場所を移して飲んだのだが、このバーも最後まで貸し切り 状態だった。私たちは地上に残された四人のようだった。Yさんからモテのオーラが。なぜ?

日
5月22日
火曜日

 歯医者さんにいく。虫歯がぜんぶなくなった!すごい素早さである。みなさん、私にはもう一本の虫歯もありません!でももう少し歯医者さんには通うのだ。それでももう一本の虫歯もありません!
  夕方、赤坂で取材を受け、その後、お寿司やさんにいく。拙書「対岸の彼女」の英訳版が出たのだが、翻訳をしてくださったラマーズさんが来日されて、それで 初顔合わせなのだ。ラマーズさんも、版元K社のMさんSさんもアメリカ人だが、日本語がべらべらにしゃべれて、日本語で会話してくれたので助かった。でも 外国の方同士が日本語で会話をしているのを見ると不思議な気分。自国語でしゃべっているのと、他国の言葉でしゃべっているのと、人ってキャラクターが違う のか否か、ということについて少々考える。
 ところで、ラマーズさんと私の公開対談が、今週の土曜に早稲田大学で予定されていたのだが、なんと早稲田ははしかが流行で学校閉鎖、と朝のニュースで やっていた。ラマーズさんはすでにそのとき飛行機のなか。公開対談は6月2日に延長になったのだけれど、学校閉鎖も延長する可能性がある。なんたること。 その場合は別の場所でやるようだが、いやしかし、はしかで学校が閉鎖されるとはだれも予想だにしないよねえ。こういうのを想定外の事態というの?

日
5月23日
水曜日

 昼に近隣の店で、女三人で昼飯を食べ、晴天のすがすがしさとはそぐわない、人生の不条理さについて語り合う。しかしいい天気だったな。

日
5月24日
木曜日

 ムハーッと仕事。はしかについてですが、私はは しかにかかったことがなく、かかる可能性があるらしい。母親が入院するとき「あんたに言っておかねばならないことがある」とまじめくさって言い、家訓のよ うなことか、と身構えたが母が言ったのは、「あんたははしかにかかっておらず予防接種を受けていない。くれぐれも気をつけるように」であった。くれぐれも 気をつけます。みなさんも気をつけて。締め切りひとつ。

日
5月25日
金曜日

 近所に、私がひそかに「コロッケ日本一」と思っ ている肉屋さんがあり、そこでときたま、レバカツというものを売っている。レバカツって食べたことないので、一度食べたいと思っているのだが、レバカツ目 当てにいくといつもレバカツはない。が!今日はめずらしくレバカツがあったので、それを買った。レバカツはモカーっとしたもんのすごい豪華な味であった。 これ、自分で作ることができないかな。もう少しレバを薄くして作ってみたい。(この数行のなかにいったい何度「レバカツ」という言葉が出てきていること か。こういうのを悪文と呼ぶのだと思います。)

日
5月27日
日曜日

 ひさしぶり(三カ月ぶり)に、ipodと nikeで走ってみる。私は怠け体質で、どうしても3キロ超えると歩きたくなってしまうのだが、今日は天気もいいせいか、5キロを続けて走ることができ た。が、もうあと数十メートルで5キロなのに「あと○○メートルで目標達成」と、ipodが言ってくれず、どうしたことかと思っていたら、10キロを設定 していた。5キロ地点で「目標半分達成」と言われたときは、がくーっと体じゅうから力が抜けるようであった。
 近隣で何かの祭りをやっていて、ちんどん屋は出るわ、駅前では露店が出るわ、空手のショーをやっているわで、たいへんにぎやかである。いったいなんの祭 りなのか。駅で、犬連れのHさんに会い、私は大興奮して犬を撫でまわさせてもらった。利口なレトリバーで感心した。どこが利口かというと、撫でられなが ら、私のことを一度も見なかったこと。犬は撫でられているあいだずっと、「いいの?撫でられていてもいいの?」というけなげな表情でHさんを見ていた。え らいなあ。

日
5月28日
月曜日

 晴れているのに涼しい。見た目の天気と体感天候が違う。美しい5月。
  昼に近くの鰻屋で、B社のダブルYさんとUさんと鰻を食べていたところ、お店の人がUさんの服にものすごい勢いでお茶をこぼした。Uさんは美しい女性なの にいつもジーンズ姿で、でもこの日はめずらしく、生成のものすごくすてきなワンピースを着ていたのであった。テーブル席の私たち全員ががびーんとなった。 あまりにもがびーんとなったので笑ってしまう。お店の人はすごく迅速にどこかへいき、だれの服かわからないが着替えを持ってきてそれをUさんに着せ、濡れ たワンピースを持ってどこかにいった。だれの服かわからないが、お店の人の持ってきたブラウスとスカートは妙にUさんに合っていた。
 その後Uさんを鰻屋に残し、私たちは場所を変えて新刊のインタビュー。先ほどの光景が頭にちらつき、私はもう、何かが落ちてだれかの服を濡らすのではないかと気が気ではなく、いろんなものを、気づかれないようにそっとテーブルの中央に移動させた。
 インタビューを終え、店を出たところでばったりとUさんに会う。Uさんはクリーニング済みのすてきなワンピース姿に戻っていてほっとした。Uさんは、お 茶や何かを衣類にこぼされる機会が(機会っていうか)が、ものすごく多いのだそうである。なんということだろう。そういうことってあるのか。私はよく酒の 席で、酔っぱらっていないので酔っぱらっていると思われたくないと思っているとき(ものすごくまどろっこしい文だな)、グラスやなんかを落とすが、いつも 濡れるのは床で、自分はあんまり被害に遭わない。締め切りふたつ。

日
5月29日
火曜日

 夕方、暮らしの手帖社にいって松浦弥太郎さんと対談。松浦弥太郎さんは、書かれる文章通りの涼やかなかっこいい人だった。暮らしの手帖社の周辺が、大都心なのにものすごく静かな住宅街で不思議な感じだった。
 その後電車で移動して、肉を食いに。電車の隣に座った人が江國香織さんの本を読んでいた。途中で片手で顔を押さえ上を向いてしまった。泣いていたようである。いい光景である。私も彼女が読んでいた本を読んでみようと思う。肉を、ぼうぼうと盛り上がりながら大勢で食べる。
 たのしすぎて帰ったら午前さま。締め切りひとつ。

日
5月30日
水曜日

  昼めしを食べに外に出たところ携帯に電話がきたので、話しながら昼めし屋をさがしているうち、ずいぶん遠くまでいってしまった。昼めし前で上の空であった ため、電話の内容がなんだったのかよくわからなくなっていた。ジム帰りに魚屋に寄るも二軒とも休み。そうかこの町の魚屋は水曜日が定休日なのか。今ごろ気 づいた。締め切りふたつ。

日
5月31日
木曜日

 昼過ぎに白金の都ホテルにいく。へんなところに迷いこんで、通りがかりのおじさんにホテルの入り口を訊いたところ、この人はたいへん親切で、裏口からホテルのフロントまで連れていってくれた。都ホテルって外国にあるホテルみたいだなー。地下のバーで取材。その後、原美術館にいってヘンリー・ダーガー展を見る。この孤独なおじさんの描いた絵は、ずっと昔から好きで、まさか展覧会で見られるときがこようとは思わなかった。
 私は出不精で都内の地理をよく知らず、大好きな絵がきてもめったに見にいかないのだが、今回はちょっと仕事が絡んでいるので見にいくことができた。いつも、仕事があるからあれもこれも見にいけないじゃんよう、と心のなかで文句を言っているが、実際は、仕事してなかったら私は家から一歩も出ないのかもしれない。それくらい興味の先の細い人間なのである。  原美術館は若い人でたいそう混んでいた。カップルが手をつないでダーガーの絵を見ているのはたいへんダーガー的な光景に見えたことである。
 夕方に仕事場に戻ったところ、雷が空でべかべか。ひいいいい、と思っていると、締め切りが過ぎているのですが、というメールをいただき、忘れていたことを思いだし、ひいいいいい、と仕事をするうち、私の動揺をあらわすかのように、がろがろーんと雷、ぎゃわーんと雨、ひいいいいい。
 隣の町の焼き肉屋でK夫妻と肉を焼く。なんか最近友だちに会えないので、たいへんにうれしい夜であった。パンダコーヒーにいく話になって、でもいかなかったが、パンダコーヒーってなんだったんだろう?締め切りひとつ。

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