アスペクト

つれづれ雑記 角田光代

作家・角田光代さんの日常を綴る日記が、アスペクトONLINEにて連載開始です!怒涛のような締め切りの数々や大好きな肉のこと。見たこと、聞いたこと、会った人、出かけていった旅のこと。角田さんの毎日のつれづれはここでしか、読めません!!

2007年8月1日〜8月31日

日
8月1日
水曜日

 仕事を終えて銀座にいく。コダックフォトサロンで行われている、森清さんの写真展会場にて、高野秀行さんと対談。
 高野さんは世界各国にUMA(未知動物のこと。ネッシーとかね)をさがしにいく冒険家というか探検家というか、なんていうんだろう、まあ不思議な人で、 トルコにジャナワールという怪獣(のようなもの)をさがしにいったルポが「怪獣記」という一冊になり、このほど出版されたので、その記念公開対談なのであ る。森清さんは「怪獣記」の写真を撮った人。
 対談は、まず、高野さんが編集したビデオではじまったのだが、このビデオがすばらしくおもしろくて、テレビ番組になるのではないかと思うほどだった。
 そしてさらに高野さんの話が異様におもしろかった。高野さんはつい先だって、「猫よりひとまわり大きく、敏捷で、人を襲ったりすることもある動物」をさ がしに、アフガンにいってきたという。でもさあー、「猫よりひとまわり大きく、敏捷で、人を襲ったりすることもある動物」なんて、ふつうは見たいと思わな いよね。そんな生き物が、もし池袋にいたとしても見にいきたくはないのに、彼はアフガンまでいくんだもんなあ。私はその話を聞いていて、モンティパイソン を思いだしたよ(ものすごいかわいいのに、驚くほど敏捷で凶暴な兎が出てくる。馬鹿馬鹿しくて泣くくらい笑った)。
 とにかくものすごくたくさんの、興味深く、ときに馬鹿馬鹿しく、ときに深遠な話を聞かせていただき、開始から四十分後くらいには、私はなんか自分ちのソ ファで飲みながら話している気持ちになってしまった。「あっ、これは公開対談だった!」と、途中で思いだしたくらいですよ。  写真展の写真も、すばらしかったです。

日
8月2日
木曜日

 すさまじく胃が痛み、ちっと横になるほどである。胃って、冬は意外に酷使に耐えるが、夏は弱気だと思う。
 ジムで見た空が、すでに夏仕様であった。梅雨関係について思うことだが、梅雨入りのときはわりと大々的に「梅雨入り、梅雨入り」とテレビで言うが、梅雨明けのときは、なんか気づかないくらいひっそりと言っていない?私が気づかないだけだろうか。
  友人Eちゃんに教わった「牛すじと夏野菜のシチュウ」をつくる。このなかにはどっさりのモロヘイヤを入れる。モロヘイヤを買ったの、人生で二度目。これで 己のぬるぬる体験度を高めるのだ(未来のすっぽんのために)!とろろもすりおろし、気がつけば、知らず胃のためのごはんになっている。締め切りひとつ。

日
8月3日
金曜日

 午前、取材一件、午後、取材一件。ぐずぐずしているうちに時間がなくなり、ジムにいけなかった。夜に魚の居酒屋にいって、自分でもびっくりするほど食べ過ぎる。昔は居酒屋で飲み過ぎたんだが、今は食べ過ぎるんだな。

日
8月4日
土曜日

 土曜日だが仕事。午前中、都心でバレリーナの加 治屋百合子さんと対談。美しくてまばゆい人だった。言葉のひとつひとつに重みがあって、ものすごく刺激的だった。才能を生かすということが、どれほど厳し いことなのかについて、深く考えてしまった。すごいなー、加治屋さん。この対談は、婦人公論という雑誌のもので、数カ月前から私はこの雑誌で対談をさせて もらっているのだが、感動するのは、会う人会う人、とても話しやすく、上からでも下からでもなく、まっすぐに話してくれること。対談は苦手なのだが、本当 に、毎回心が洗われる、というのはへんな表現だが、しかし、何かを一生懸命やるってのはいいことなのであるなーと、しみじみ思うのだ。何かを懸命にやって いる人というのは、言葉をへんに包み隠したりかっこよくしたりせず(たぶん、ほかに全力投球しているからそんな余裕がないのであろう)、嘘っぽさがまるで なく、親しみがあり、好きにならずにはいられない。加治屋さんも、いっぺんでファンになってしまった。
 夜、今いちばん好きな中華屋にいくも貸し切り、やむなくお好み焼きを食べる。

日
8月6日
月曜日

 気がつけば真夏ですね。午前中、人間ドックにいき、マンモグラフィーの壮絶な痛さに騒ぎまくる。ああ、やっぱり私にこの機械は合わない……。昼過ぎ、打ち合わせをし、午後仕事。しかし暑いこと。人間ドックが終わったので、開放されたように悪の食事。

日
8月7日
火曜日

 お昼に打ち合わせで入った喫茶店が、じつに昭和ふうで、働いているとうのたった女性たちもその喫茶店に似合っていて、いいなあと思った。夕方、新幹線に乗って大阪にいく。
 大阪は、十七年くらい前、半日だけいったことがあるくらいで、ほとんどはじめて。京都は何度もいったことがあるのに、なんだか不思議である。大阪芸大で 先生をしている長谷川さん、山縣さんと梅田で落ち合い、法善寺横町に向かう。テレビでしか見たことのなかったグリコの看板や、食い倒れ人形や、かに道楽の 蟹に私大興奮。ひっかけ橋でナンパされたかったが、今ではあんまりそういうことはないらしい(いや、それ以前にナンパされるかどうかという問題もあるのだ が)。
 道に迷い、通りがかったおばさんに道を聞いたところ、このおばさんも知らず、それなのに彼女は道ばたでビラ配りをしているホストのようなにいさんに、わざわざ道を訊いてくれた。大阪ではふつうのことらしいが、私はたいへんに感動した。
 法善寺横町でごはんをたべ、そのままどこかにいき、どこかのバーで飲み、外で買ってきたたこ焼きを食べ(夢のようにおいしい)、さらに移動してカラオケ装置のあるスナックで飲む。
 深夜二時ごろ、ホテルに帰ろうと大通りに出たら、ふつうに靴屋や服屋が営業しており、さらにごくふつうに町を大勢の人が歩いており、大阪ってすごい なー、と思った。私の母方の父(つまり祖父。会ったことはない)は関西の人で、母家族は一時期大阪に住んでいた。そういうこともあって、なんだか興奮する のかもしれない。

日
8月8日
水曜日

 ものすごい勢いの晴れ。昼ごろに、通天閣のそばに連れていってもらう。有名な串カツ屋で串カツとビール。こういう串カツ屋は東京にはないですね。東京で串カツというと串揚げでしょう?串カツがうまくてこれまた感動。
 そこから梅田にいって、長谷川さんとトークショー。大阪芸大のイベントである。いらしてくださった方々、どうもありがとうございました。
 すっかり大阪のファンになって夕方新幹線で帰る。空が、夕方から夜になっていった。

日
8月9日
木曜日

 午前中に猛然と(のつもりが暑さのために、へろ へろと)、仕事をし、午後、横浜方面にいく。横浜といっても海のある横浜ではないですよ、山のある横浜。盂蘭盆ですね。お寺をふたつまわる。暑かったな あ。夕方戻って仕事をして帰る。夕食にまったく何も考えず、イエローカレーと南瓜サラダを作ってしまい、テーブルの上真っ黄色。締め切りふたつ。

日
8月10日
金曜日

 髪を切り、仕事をし、夕方、新大久保へ。今日は 久しぶりの内臓部夏の会。あまりに暑いので、ビールを飲んだら鳥肌がたつくらいおいしかった。半屋外の店で、サムギョプサルや内臓料理。あいかわらずすば らしい内臓料理である。その後、近くのバーに移動して飲み、それからなぜか高円寺に移動し、屋外で白ワインをざばーんざばーんと飲む。この会の人々は眠ら ないので(いや本当にこの人たちが帰る姿を見たことがないんだ、私)途中で帰る。

日
8月11日
土曜日

 暑くてさぼりたい気持ちをこらえてジムにいき、その自分を讃えるかのように壷入りの肉。
  その後、ふらふらと隣駅まで歩いて大昔の映画のビデオを借り、帰ってきて観る。高校生のときロードショーで観た映画だが、今観てもすばしらかった。私は通 常、ビデオやDVDを借りて観ることがまったくなく、よってビデオ屋の会員券も持っていないのだが、先だって読み終えた「血と骨」の興奮が、私にビデオを 見せるわ今までよけておいた長編小説を次つぎ読ませるわ、すごいことになっている。これってたとえばたまたま観たアニメにはまってしまい、そのアニメグッ ズを揃えたり、ゲームやコスプレにはまったりするようなことかな。あ、ぜんぜん違うな。

日
8月13日
月曜日

 朝の電車ががらすきだったので、あーお盆休み かー、と知る。暑くてやる気が三割減。でもがんばるっすよ。夕方に都心にいき、おでん屋の地下のビストロに到着。以前の仕事の打ち上げ。この店、はじめて いったけれど、メニュウにほとんど肉しかなくて、すばらしいところであった。肉派の私だが、この店のパクチーサラダには大感動した。パクチーだけなのにう ますぎる。
 打ち上げ中、メンバーのひとりの記者会見のようになる。彼の話に質問が飛び交う。二次会でも飛び交う。質問のあとはアドバイスが飛び交う。酔うにつれ、 個々のアドバイスは個人体験に裏打ちされたものとなり、どんどん珍妙なものになる(個人の経験に裏打ちされたアドバイスって、本当に偏っていてへんちくり んだよな)。日付が変わる前におひらき。

日
8月14日
火曜日

  電車あいかわらず空いている。ひゃほう。あんまりにも暑いので、先々月にいった山形の「はっこいラーメン」のことを毎日考えている。それで、近くのラーメ ン屋の、ちょっと見「はっこいラーメン」的なものをつい頼んでしまう。これははっこいラーメンとまったく異なる代物であると予想はついているのに頼んでし まう。たしかに大違いの、奇妙な食べものだった。まず、別皿でついてくるキムチをいれる。汁は冷たい。冷麺のスープに似ているが、ちょっと甘い。麺は中華 麺。分厚く切ったりんごが二つ入っている。へんでしょう?あー、はっこいラーメン食べたいなあ。
 汗水垂らして仕事をして帰る。夜ごはん善。すき焼き食べたい、って思った。善の魚食べながら、すき焼きのことを。ごめん魚。締め切りはふたつ。

日
8月15日
水曜日

 電車の空きがピーク。お盆はみんな休みなんだなあ。
 暑いなあ、と思いつつ仕事をして、夕方、早稲田のホテルで取材一件。学生の方々が取材をしてくださる。若いのにきちんとしていてびっくりした。私なんか敬語使えなかったよ、二十歳のころ。丁寧語だってあやしかった。
 それから原宿方面に移動し、栗田さんと落ち合い、渋谷AXへ。辻仁成氏のライブがあり、栗田さんに誘っていただいたのである。私の席のまわりには作家の人がたくさんいた。
 終了後、会場で会った作家・編集者と大人数で移動して、スペイン料理屋へ。すてきな店であった。私は胃がしくしく痛むので、わりと早めに帰った。締め切りふたつ。

日
8月16日
木曜日

 午前中、所用を済ませに新宿にいき、ちょうど昼どきになったので、前からいってみたかったスウンドゥブ屋でお昼ごはんを食べた。汗が尋常でないくらい出てきて、まるでボケモンスタンプラリーに並ぶ子ども並みに頭髪が濡れ、ちっと恥ずかしかった。
 夕方まで仕事をし、隣町に飲みにいく。近隣の作家Hさんと遠方の作家Mさんと飲むという趣旨の会である。開始三十分後には笑いすぎて腹が痛かった。不思 議な店で二次会をし、ホッピーを飲み、日付がかわってから解散。ああ、夢のようにたのしかったことである。胃痛も忘れたよ。

日
8月17日
金曜日

 夕方、都心で大ミーティング飲み会。10月の、 たのしいイベントのことについて、15人くらいでわいわいと話をして決めていく。そのイベントに参加するには、多大な努力が必要なのだが、飲み会に参加し たいがために私は多大な努力をしようと決める。しかしたのしいミーティングであった。

日
8月18日
土曜日

 急に寒くなった。寒いとはいえ30度。このとこ ろの暑さで、体感温度がへんになっているんだろう。涼しいから運動が楽かと思ったが、湿気があるからか、いつもよりたくさん汗が出た。涼しくなったので急 遽すき焼きにした。年をとって、肉よりしらたきが好きになった。しかし厄介なのが、肉の油を吸ったしらたきが好きなのであって、ただのしらたきだとそうた くさんは食べられない、というところが、私が悪から抜け出せないゆえんだろう。

日
8月19日
日曜日

 今日は休日仕事。朝早く起きて東京ドームにい き、野球の喫茶店で撮影と取材、その後、ドームで女性限定の巨人ファンクラブの集いみたいなイベントに混じる。えーと私はファンクラブ会員なのではなく て、これも取材なのである。編集者の女性と二人一組になってキャッチボールをし、長嶋一茂さんにキャッチボールの正しいやり方を習う。それからボールを遠 くへ投げたり、コーチが投げるボールを拾ったりする競技があって、イベント終了。意外なたのしさであった。とくに、キャッチボールなんてはじめてだが、興 奮するほどたのしかった。
 このキャッチボール、私はユニフォームを(上だけ)着なければならなかったのだが、背番号は何番がいいか、と訊かれ、好きな番号のものを着ることができた。さて私は何番にしたか……くだらない問いかけをすみません。7番です。好きなんです二岡選手が。
 それで仕事は終わりなので(いったいどんな仕事なんだとお思いの方も多かろう、私もちょっと謎である)、解散、私は都心に戻りデパートの食料品売場をう ろついて食べものを買う。取材のお礼で観戦チケットをもらったので、試合観戦用のごはんである。朝に食事をしたきりだったので、心身ともに飢えており、も のすごい量の食料を買ってしまい、えっこらさとそれを運びつつまたもや東京ドームへ。
 試合がはじまる前にそれらをむさぼり食って、おなかがくちくなった。しかしこの日の試合は感動ものだった。阿部の逆転ホームランで試合終了。泣きそうになったことである。

日
8月20日
月曜日

 暑さのなか、やる気をしぼりだすようにして仕 事。午後にジムにいったら休みだった。本日休館の文字が陽炎のように揺れて見えた。思うところあって、たんぱく質をたくさん摂れる夕食にした。もちろん善 である。締め切りみっつ。冬の締め切りより夏の締め切りの方がつらい気がするのはなぜ?なぜ?

日
8月21日
火曜日

 朝、起きたときは「ああぜんぜん眠くないよ!」と思うのだが、仕事場について仕事をはじめるととたんに眠くなるのはどうしたわけだろう。しかも、毎日。
 軟骨入りの鶏ハンバーグを作り、食後映画を見る。これが非常におもしろい映画だったのだがあまりにも長すぎ、続きは明日にして眠る。

日
8月22日
水曜日

 昼、立ち食い蕎麦を座って食べる。夕方、近所で写真を撮る仕事があり、写真を撮らせてもらうお店にいったら猫がぐだーっと三匹寝ていて、かわいいでやんの。撫でてもちっともうごかない。が、耳を指で挟み続けていたら、やっと迷惑そうに顔の位置を変えた。
  写真を撮らせてもらったお店はもろバンコクといった風情で、ポラロイド見せてもらったら、さらにもろバンコクで、まるで海外取材にいったかのようであっ た。でももしかしたら、今のバンコクはもっと都会っぽくなっていて、この店はタイ人も懐かしがるようなレトロバンコク屋台に見えるのかな。バンコクにいき たいなあ。
 夜急に焼き肉。平日の早い時間なのに焼き肉屋は混んでいた。

日
8月23日
木曜日

 ちょっと涼しいなーと思いながら仕事。夜になっ てから近隣の駅でK社のDっち、Mさん、作家のAさんと待ち合わせ、タクシーに乗って焼き肉屋へ。この焼き肉屋が非常にわかりづらい場所にあり、くねくね 道を運転手さんは「最悪だー」と言いながら突き進む。遅れてKさんとSさんが登場してビール。なんの会合?といわば、肉の会合である。
 今日が焼き肉なことは前々から決まっており、だから昨日何もわざわざ肉を食べにいくことはなかったのだが、「明日は焼き肉、焼き肉、うれしいでござる」と思っているうち、焼き肉暗示にかかり、ついいってしまったというわけである。そして二日連続というわけである。
 お店のおじさんが肉を焼いてくれるのだが、見たことのない焼き方で、たいへんにおいしかった。とくにレバがおいしかった。めっぽうたのしかった。締め切りふたつ。

日
8月25日
土曜日

 この三年ほど、食洗機のことを考えていたのだ が、もうこの件について考えるのが嫌になって、突発的にヨドバシカメラにいく。近隣に新しくできたヨドバシカメラの上階は、レストランフロアになってお り、そこに、先だって大阪で名を聞いた有名なお好み焼きやさんが入っているので、帰りにいってみた。たしかにうまかったことである。
 ひと駅ぶん歩いて帰ったところ、町が橙色で、海辺の町を散策しているようだった。

日
8月26日
日曜日

 5キロ走るも、たいへんにつらかった。こんなにつらいのは暑いから?暑いからであってほしい。しかもタイムも遅かった。このままではいかん!
 本屋さんにいって本を買って、アイスクリーム屋でアイスクリームを買って、帰宅してアイス食べながら本という至福。このアイスクリーム屋さんのアイスはたいへんにおいしいが、冷凍保存ができないので、買ってきたらすぐ食べないといかん。それで二個食べた。

日
8月27日
月曜日

 昨日の5キロがたいへんにつらかったので、でも走らねばならない理由ができたので、今日は午後にジムにいき、心肺機能を高めるべく、いつもは1ラウンドミット打ち後休むのだが、休まずにやってみた。へろへろになった。心肺機能高まるのか。うーん。

日
8月28日
火曜日

  昼に立ち食い蕎麦を食べて仕事場を出、都心方面へ。ホテルで取材二件、のち新刊「予定日はジミー・ペイジ」を受け取り、そのまま移動して新人賞の選考会。 白熱の討論中、ものすごい稲光。雷と雨。受賞者が無事に決まり、ごはんを食べて酒を少し飲む。この新人賞は私は今年で最後。この賞の選考会はいつも刺激的 で、勉強になった。日にちが変わる前に帰る。

日
8月29日
水曜日

 夜に壮大なミーティング。何が壮大かって人数が。シャンパンをざばーんざばーんと飲み、違いがまったくわからなくなる。こういうときは、高価なものから飲んだ方がいいらしいと学ぶ。なんちゃってキャビアをはじめて食べた。

日
8月30日
木曜日

  あーあ、夏休みももう終わりだよ(ないけどさ、休みなんか……)。烏のまぶたを見たことありますか。すごいんだよ、メタリックなの。交差点で、逃げない烏 がいたので、じいーっと見ていたら、烏の瞬きがまるでCGのようでびっくりした。ぱちっとするとき、銀色が、ぎろん、とするのだ。烏ってすごいなあ。
 スポーツクラブでテレビを見ながら運動していたところ、午後の情報番組で、「焼き肉食べ放題の店」の特集をしていて、何回も何回も何回も牛の肉の映像を 見ていたら、すっかり洗脳され、帰りに牛の網焼き肉を買っていたことだよ。「はっ、これではいかん」と思い、中和するかのように野菜たくさんのスープも 作った。
 肉用の大根をおろしていたところ、担当のYさんから電話があり、中央公論文芸賞の受賞が決まりました、とのこと。えーとあのー、それはいったいどのよう な、としどろもどろにする。こういう、候補になっていることを知らされない賞というのは、びっくりテレビを連想させますね。連載時の担当Nさんに知らせた く電話をするが、留守電。少し前に、彼女からチベットにいるという葉書をもらったので、Nさんは今もチベットにいるのかもしれない。お礼の言葉を留守電に 吹きこんでいたら、この小説をNさんとともに作っていたときのことを思い出し、感慨深さのあまり泣きそうになる。締め切りみっつ。

日
8月31日
金曜日

 毎年この日になると、宿題をマスオや波平にやらせるカツオの姿が思い浮かぶ。
 午前中、来月のことで打ち合わせ一件。おにぎりを超特急で食べて代官山へ。打ち合わせ、取材、と続き、代官山のフラワー・ロボティクスという会社にい く。婦人公論の対談で、今日のゲストはロボットデザイナーの松井龍哉さん。ものすごく美しい事務所で、ものすごく興味深い話を聞く。松井さんはクールに見 えてたいへんチャーミングな人だった。今回もとてもたのしい話を聞くことができた。部屋の隅にある美しいロボットが、ひそやかに呼吸をしているようだっ た。締め切りふたつ。

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