アスペクト

つれづれ雑記 角田光代

作家・角田光代さんの日常を綴る日記が、アスペクトONLINEにて連載開始です!怒涛のような締め切りの数々や大好きな肉のこと。見たこと、聞いたこと、会った人、出かけていった旅のこと。角田さんの毎日のつれづれはここでしか、読めません!!

2007年9月1日〜14日

日
9月1日
土曜日

 昼過ぎに家を出、上野の芸大で金刀比羅宮の展覧会を見て、そのまま東京駅にいく。今日は休日出勤で、公開対談の仕事がある。早めに着いてしまったので丸ビルを見る。丸ビルと新丸ビルというものが、ふたつ並んで建っていることを、はじめて知った。
 二時半に丸ビルホールで打ち合わせ。金原瑞人さんにはじめてお会いする。この対談ではふたりがお勧め本を出し合うのだが、金原さんが推薦する「穴」と「女帝」を読んだら、もんのすごくおもしろかった。とくに「女帝」はぎょっとするほどのおもしろさである。思うに、翻訳家というのは、おもしろい本の紹介者でもあるんだよなー。だから、翻訳として関わっていなくともおもしろい本を薦めるのがきっとうまいんだと思う。この公開対談にいらしてくださった方々、どうもありがとうございました。
 このあと打ち上げがあり、くるおしく参加したかったのだが、今、唖然とするほどのゲラゲラゲラ地獄なので、やむなく帰ってゲラを読む。うーゲラ。

日
9月2日
日曜日

 先週買った食洗機がやってきて、数分で取り付け工事が終わる。はてこの食洗機、便利なものなのかどうか。
 夕方、気がついたら眠りこけており、起きてゲラのことを考えながら、おそらく逃避のためにスナック菓子をたくさん食べてしまい、胸焼け。夕食もあんまり食べられなかった。子どもじゃないんだからもう。

日
9月3日
月曜日

 時間軸が狂い、締め切りのことが一瞬わからなくなる。午後に都心のホテルで取材。昨日、テレビでバームクーヘンを見て、気持ちがざわつくくらいバームクーヘンを食べたくなっていたのだが、ホテルのパン屋に売っていたので思わず買った。ところがこのバームクーヘン、私の思っていたものとちょっと違って残念(渦巻きが濃い、手で渦の部分がばきーんととれるバームクーヘンを食べたかったのだが、ホテルのものは、渦巻きが薄く、パウンドケーキのようであった)。

日
9月4日
火曜日

 仕事仕事仕事、途中、週末の京都行きの準備。準備、といっても旅行鞄を出すとか、旅行用の服を買うとか、そういうたのしいことではなくって、ワークショップで使う教材を選んだりという準備。それからジムにいき、豚の冷しゃぶ。昨日から、近所を歩くある犬の、とりこになってしまった。この犬、ほんとーうにかわいいの!恋のように思い出している。

日
9月5日
水曜日

 昼過ぎ、打ち合わせをすべく都心へ。雨がすごい勢いで降ったり、いきなりやんで陽が射したりと、妙な空模様。台風がきているらしい。都心の喫茶店でTさんから衝撃のお話を聞く。でもいい衝撃であった。その後、近くの店に移動中、雨がざんざんぶりになる。どっぷり濡れて店に到着、新人賞の選考会。じつに奥深い議論ののち、新人賞決まり、その後ごはん。ごはん後二次会。帰りの車で眠りこける。締め切りみっつ。

日
9月6日
木曜日

 なんだか最近、いっときより締め切りがらくになったわー、と思いながら仕事をしていて、はたと、この先二週間ほどのことを考えたら、ぜんぜん間に合わないでやんの。何をいい気になっているんだ、と、気を引き締めて仕事をする。こまったなー、いやこまったなー。と焦りつつ仕事。昼に食べた麺類が、どしーんと腹に残り、夜になってもまったく腹減らず。締め切りふたつ。

日
9月7日
金曜日

 台風去りつつある。明日、京都いきなんだけれど、なんの準備もできていないでござる。締め切りよっつ。ひいいー(息切れ)。

日
9月8日
土曜日

 午後に京都にいく。私の頭のなかでは、名古屋、大阪、京都、という順番なのだけれど、新幹線は、名古屋、京都、大阪、である。ホテルにチェックインしてから、ワークショップのある四条に向かう。三十人ほどで、小説の入り口をさまようというようなワークショップで、これは去年(か、一昨年か、もう記憶があやうい)もやった。私の下手な話をみなさん聞いてくださり、課題にもまじめに取り組んでくださり、たいへんありがたい。
 ワークショップ後は去年(あるいは一昨年)と同じく笑笑で打ち上げ。去年か一昨年は、飲み過ぎてしまい、翌日つらかったので、今日は一次会で帰るとかたく心に決めていたというのに、たのしかったので結局二次会にもいってしまったことである。ああ………。

日
9月9日
日曜日

 昼過ぎにワークショップ二日目。私のかなり乱暴な課題に、みなさんきちんとついてきてくださる。いらしてくださった方々、ありがとうございました。たのしかったですね。
 三時にワークショップ終わり、私はそのまま超特急で中京区にあるギャラリーへ。
 恒例温泉仲間である司修さんの原画展が、中京区のギャラリーで昨日からはじまっているのである。そこに着くと司さんは背中を丸めて大量のサインをしていた。原画展は本当にすばらしかった。絵がこちらをとりこんでくるような感じ。司さんって、すごい人なんだなあ。
 そしてそのギャラリーに、恒例メンバーがぞくぞくと集結。司さんの原画展、私の出張とからめ、みんなで蕪蒸しを食べようという話になっていたのだった。このメンバーがこんなに遠くに集うのははじめてで、「すごい!京都で会えるなんて!」と、感動する。
 川沿いの、古い佇まいのお店で蕪蒸しコースを食べる。これがもう、何を食べてもうまくてうまくて、気が遠くなるほどだった。蕪蒸しに至っては、「どうせ蕪でしょー」と内々で思っていた私を、はり倒す勢いのおいしさであった。
 十二時過ぎに朦朧としてきたので部屋に帰って眠った。

日
9月10日
月曜日

 結局、京都観光はまったくせず、午前中に新幹線で帰る。東京駅からそのままS社にいって、台湾の方々の取材を受ける。奇遇なことに私は来週台湾にいく。時間ができたら向こうで会いましょう、と約束をして、地下の食堂でKさん、Sさんと社食のコーヒーを飲む。Kさんのあまりにも衝撃的な告白に、私とSさんは言葉を失う。Sさんのつっこみがいちいち異様におもしろかった。そのまま仕事場に戻ったら今日の夕方までのゲラがあり、でもそんなのは無理だと思い、帰ってしまう。申し訳ないことをしました。
 さすがにくたびれたなー。

日
9月11日
火曜日

 夕方に恵比寿にいく。今日は女同業者四人で飲む会。たいへんおいしい店だった。でも、道が入り組んでおり、自力ではもう二度といけないかもしれん。この店はある小説の舞台に使われていて、「ああ、この奥の席で……」とか「あの窓ガラスの向こうを……」とか、そんなことに感動する。小説ミーハー。
 その後移動し、八十年代歌謡曲を流すバーで飲みふける。居心地のいいバーで、入ったときは客はほとんどいなかったのに、出るときは満席だった。日が変わって帰宅。ウコンを飲んで眠る。締め切りふたつ。

日
9月12日
水曜日

 仕事場につき、「うーんと、あの締め切りっていつだったっけなー」と調べていたら、今日であると判明。ものすごい剣幕で書いて送った。あーこわこわ。あーこわこわこわ。
 なんだか最近、秋がすげー短い、というエッセイを書いたので、帰り、さんまときのこを買って、きのこごはんとさんまという秋満載の夕食にした。したら、このさんまが、もうたまげるぐらいうまかったことである!私、さんまって秋以外食べないので、一年ぶりのおいしさということなのだろう。
 夜はゲラ。こんなにも大量のゲラを見ているのになぜいつまでも手元にゲラがあるのだろう。締め切りよっつ。

日
9月13日
木曜日

 夕方、二カ月ぶりに歯医者さんにいく。夜の待ち合わせまで少し時間が空いたので、喫茶店でぼんやりとする。すごいな、こういう時間。その後近隣の店をのぞきながらゆるゆると待ち合わせ場所へ。今日はB社の方々と、他の作家の方々と、装幀・装画を描かれる方々、みなさんの打ち上げに、おじゃまするのである。私はその仕事とまったく関係がないというのに打ち上げるのである。いやはや、幸甚。このお店が、きらびやかなすてきなところで、トイレがすんごーく広かった。
 コースで魚を頼む人がいると、いつもぎょっとするんだよな。しかもそれが乾いた魚でなくて濡れた魚なんかだと(炭火焼きとかじゃなく、蒸してソースをかけたものとか)。私さー、コースで魚の欄見たことないよ。だから洋食(イタリア料理とかフランス料理とかね)で、どんな魚を食べるのか、まったく知らない。昨日みんなが食べていた濡れた魚がなんであるのかも。
 その後、妙に落ち着くバーにいって、タクシーの珍運転手の話で盛り上がり、解散。たのしかったなあ!締め切りみっつ。

日
9月14日
金曜日

 あさってから取材で台湾にいくので、てんやわんや。てんやわんや仕事。それでもジムにいこうとする私は、脅迫観念症なんだろう。台湾は、八年ぶりくらいだが、すっかり変わったらしい。とてもたのしみ。
 それでですね、長らくこの日記を読んでくださった方、くだらぬ戯言につきあってくださり本当にありがとうございました。この日記、事情がありまして、ここでいったん終わることになりました。こんなに続くとは思っていませんでした。一日のことを書くと、その一日が本当にあったのだとあとで思うことになり、それが何より、たのしい作業でした。ではではみなさん、またどこかでお会いしましょうー。

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