アスペクト

つれづれ雑記 角田光代

作家・角田光代さんの日常を綴る日記が、アスペクトONLINEにて連載開始です!怒涛のような締め切りの数々や大好きな肉のこと。見たこと、聞いたこと、会った人、出かけていった旅のこと。角田さんの毎日のつれづれはここでしか、読めません!!

2007年11月13日〜30日

日
11月13日
火曜日

 つれづれ、というのは、ものおもいにふけったり、することもなく退屈なようすのことをいうらしい。つれづれがる、と動詞になると、退屈でさみしがる、という意味らしい。たしかに私は日々非常に退屈である。忙しいのに、いや、忙しいから退屈のようである。忙しいと退屈が結びつこうとは、暇だった二十年前は思わなんだ。
 そんなわけでまた日記を書かせてもらえることになった。よろしくお願いします。
 すごい晴れ。11月も半ばなのに寒くなる気配がいっこうにない。昼過ぎ、信濃町から歩いて明治記念館へ。それにしてもすごい晴れ。お化粧をしてもらったら、目が二倍になった。地下の部屋で、安西水丸さんとビールについての対談。安西水丸さんとははじめてお会いする。が、非常ななつかしい雰囲気。そうそう、これは自由な偉人が持っているたおやかさ。ときどきこういう人に会うと本当にうれしくなる。
 対談は早めに終わり、外に出るとまだものすごい晴れ。地下の部屋が暗かったので夜だと思ったら、まだ夕方前だった。目が二倍でうれしいのでどこかにふらふら出かけたかったが、仕事場に戻り仕事をし、二倍の目のまま帰宅する。髪も、自分では一生できないくらい複雑にきれいになっていたので、ほどいてしまうのがもったいなかった。風呂から出たらふつうの目に戻っていた。

日
11月14日
水曜日

 今、わけあって自宅から仕事場まで、電車で一駅のところを歩いている。三十分弱。毎朝ではなくて、余裕のあるときだけだが、朝歩くのはたいへんに気持ちがいいと思った。コンビニエンスストアで冷たいコーヒーを買ったら「いってらっしゃいっ」とレジの人が言って、そんなこともなんだかうれしく、「まかしときっ」と答えたいところだが、ぐっとこらえた。
 午後にK社にいって取材。取材後、その最寄り駅から地下鉄乗り場にいき、次に目指す場所を路線図のなかにさがしたが、見つからない。携帯電話で乗り換えを調べようと思ったがうまく調べられない。どのように次の場所に向かえばいいのかさーっぱりわからない。やむなくタクシーに乗った。なぜ乗り換えがこんなにもわからないのか、我ながら謎である。
 イタリア料理屋で女ばかり四人のごはん。たいへんにおいしい店だった。その後どこかに移動し、移動したら知っているバーだったが、いつもここには酔っぱらって連れてきてもらうので、この店がどこにあるのか未だに知らない。その後も移動、川沿いの、またしても知らない場所にあるバーへ。店を出るときは異国を旅行中の気分。締め切りふたつ。

日
11月15日
木曜日

 昨日寝たのが三時だったので、今朝は朝歩かなかった。
 昼、近くの鰻屋で、F社のSさんと近隣のSさん、遠方のFさんと落ち合い、お昼ごはん。Fさんはこの鰻のために前泊までしたのだそうだ。尊敬。鰻後、喫茶店でコーヒーを飲み、あまりにもたのしすぎて「ああ、このまま夕方になってみんなで居酒屋へ突入していっそ明け方まで話してしまおう」と思うが、歯医者さんの予約があったので、三時ごろ解散。
 歯医者さんへいき、その後タクシー移動。車の窓から川が見え、あれ、昨日もきたところだ、と思った。昨日いた場所の地名がやっとわかった。
 豚の鍋がある店で、S社Kさん、新婚カメラマンのMさんと打ち上げ。衝撃的な話の数々を聞き、人はなんと自由に生きられるものなのだろうかと感慨に耽る。酔っぱらわずに帰る。

日
11月16日
金曜日

 歩いて通勤。午後、出かけようとしたら電車が止まっていた。動いている電車に乗って神保町へいき、取材一件。その後、じつに久しぶりにMさんに会い、無事を祝い握手。Mさん、Yさんとともに帝国ホテルへいく。きらびやかな会場で四つの賞の授賞式。二次会を梯子して、三次会にまでまぎれこみ、深夜をとうにまわった時間、帰宅。ああたのしかった。締め切りふたつ。

日
11月17日
土曜日

 昼に起きて新しくできたお弁当やさんのお弁当を急いで食べて、表参道にいく。青山ブックセンターで永江さんとトークショーである。永江さんは本当にインタビューがうまいのう、と感動しつつ、私にはめずらしく白熱して話す。白熱して話したあとに恥ずかしい気持ちにならないのも、永江さんの技だと思う。私は引き出しがたくさんある人間ではないので、インタビュアーがおんなじ質問をすれば一種類のおんなじ答えしか出てこない。それで永江さんは、おんなじテーマであってもぜんぜん違うところから質問をしてくださるので、いつもの一種類ではなく、ずるずると話が広がる。いらしてくださった方々、ありがとうございました。

日
11月18日
日曜日

 隣町に買い出しに出かけたら、あれもこれもと買うべきものがあり、気がつけば大荷物に。ああ、年末ですなあ。

日
11月19日
月曜日

 みちーっと仕事をして、午後ジムに。今、私はたいへん過酷な練習をしている。今日も三人で過酷な練習をした。ぐったりして帰ってタイカレー。

日
11月20日
火曜日

 夕方、歯医者さんにいき、終了後、表参道を歩く。青学の裏で打ち合わせごはん会があるのである。少し時間が早かったので、青学を通りすぎてさらに歩く。私は渋谷という町が非常に苦手で、打ち合わせや食事の約束は、みな渋谷を避けてもらっているのだが、つい先だって編集の人に「どこからどこまでがあなたにとっての渋谷?」と訊かれたので、どこまでが渋谷か見極めるために歩いたのである。そうしたら、宮益坂の途中までが渋谷だ、と思った。その途中までは表参道なので、苦手ではないことになる。ちなみに、恵比寿も、神泉もだいじょうぶなんです。
 青学の裏にあるお店でB社の方六人とごはん。ワインをざばーんと飲んで、たいへんにたのしかった。仕事の話もしたようである。その後、四ツ谷に移動して一杯だけ飲んで解散。締め切りみっつ。

日
11月21日
水曜日

 月末に向けて、なんだかいろいろ間に合わないような気がして、みちーっと仕事をしていたら、四時前に目がべかべかになり、空腹が極まって低血糖状態に。仕事場内にある甘いものをさがすが、チョコのひとかけらもなく、やむなくりんごジュースを飲んでしのいだ。
 夕暮れの音楽を聴いて仕事場を出、歩いて帰る。夏はまだ明るい道ももう真っ暗で、歩いて帰るのもいいなーと思う。

日
11月22日
木曜日

 仕事場に本棚ができて、たいへんにうれしい。本がありとあらゆるところに散乱していたので。夕方、自宅近所の喫茶店で、来月の西荻ブックマークの打ち合わせ。この喫茶店、すごーく変わっていて、でもとても雰囲気のいいところで、近所にこんなところがあるなんて!とびっくりした。私はお茶派ではないので、お茶を飲むところを極端に知らないのである。仕事場と自宅がいっしょだったらここで打ち合わせをやるのになあ。牡蠣のシチューを作った。

日
11月23日
金曜日

 電車に乗らず歩いているから休日気分が今ひとつ味わえない。それにしても昨日今日の寒さは尋常ではない。今日なんて正月のようではないか。髪を切り仕事。締め切りいつつ。明日から福井にいきます。初福井。

日
11月24日
土曜日

 早朝に家を出、新幹線に乗り、米原で乗り換えて駅弁を食べて福井へ。福井の図書館に直行。すばらしく現代的なうつくしい図書館である。今日はお招きいただきトークショーがある。トークショーの相手をしてくれるのはK社のSさん(ダルビッシュ似)。あいかわらずへたな話ですみません。最後の質問のコーナーで、たくさんの質問をいただいてありがたいことだった。私は福井にはじめていき、まったく縁のない土地なのだが、昔、「福井出身?」と訊かれることがごくたまにあったので、なんとなく親近感を持っていた。言葉のイントネーションが福井っぽいらしい。
 ホテルに戻り、ホテルの近所に五人で蟹を食べにいく。ああ蟹、蟹よ!蟹後、福井の繁華街で少しばかり酒を飲んで散会。ものすごい濃い夢をたくさん見る。知らない土地にいくと夢が濃くなる。

日
11月25日
日曜日

 福井見物を何もせず、早朝また電車に乗って都内に戻る。ああ、一日が五十時間くらいあれば、東尋坊とか、お寺とか、かにかにカーニバルとかいけたのになあ。夜、肉を食べにいく。

日
11月26日
月曜日

 午後取材一件。夜、赤坂にいく。赤坂のレストランで吉田さんのお祝いの会にお邪魔する。絨毯が赤く、きらびやかで、ちょっと緊張するが、飲んでいるうち赤絨毯でも座敷でもかわらぬ状態に。三次会にまでついていき、深夜をまわってはっと我に返り、帰ってきたことである。たのしいと時間感覚がなくなるのう。

日
11月27日
火曜日

 テレビで、「熟女ストーカー急増中」という特集をやっていて、再現フィルムに出てくる女の人が四十一歳だったので、私もなんかあれば熟女ストーカーと呼ばれるのだな、とふと思った。あんまり人にしつこくしないようにしよう。熟女ストーカーって言われたくないもんな。
 もう今月が終わったら師走。こわすぎる。そして月末の締め切りがぜんぶ終わるのかもこわすぎる。明日のことも考えるのをやめて、今日の晩ごはんのことだけ、考えるようにしよう。とうぶん。定食屋風、定食屋風、と考え続け、夜のごはんを定食屋風にした。

日
11月28日
水曜日

 お昼に仕事場を出て上野でやっているムンク展を見、そのまま青山へ。駅から徒歩五分の場所に二十分かけて着く。池澤夏樹さんと対談。非常に刺激的であった。緊張しっぱなしだったけれど。(私は30分以上じっと座っていることができないため、トークショーなどにはいったことがないのだが、じつは十二年前、一回だけいったことがある。それが池澤さんのトークショーだった。)  その後高円寺でものすごく久しぶりの清志郎の会。今回もまた九割が清志郎の話。すごいなー私たち。そしてまたしても店長に歌わせてしまった。しかも店の真ん中で。お客さん大拍手。店長いつもありがとう。たのしすぎて飲み過ぎた。すばらしい一日であった。

日
11月29日
木曜日

 たしかに昨日飲み過ぎたらしく二日酔いである。二日酔いのまま買い出しにいき、夜の宴会の準備をしつつ仕事。あ、逆だ、仕事しつつ夜の宴会の準備。七時前に三人集まり、ぐわーんとしゃべりつつ飲む。昨日に引き続きすばらしい一日。今日は母の命日なのだが、こんなにすばらしく愉快に過ごせたことを神さまに本気で感謝する。好きな歌をipodで大きな音で聞きながら電車に乗ってかえった。締め切りよっつ。

日
11月30日
金曜日

 ああ、本当に本当にもう年末。
 朝、非常に早い時間から新宿のホテルで広末涼子さんと対談。こういう美しい女優のかたと並んで写真を撮るとき、自分の顔のでかさを隠すため、私はさりげなく半歩ずれたりするのだが(むなしい努力よのう)、今回はうしろがソファの背でずれられなかった。西瓜と苺くらい大きさが違うであろう。
 その後帰って仕事をし、ああもう、なんだかぜんっぜん時間がねえべや、と焦る。締め切りいつつ。

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