アスペクト

つれづれ雑記 角田光代

作家・角田光代さんの日常を綴る日記が、アスペクトONLINEにて連載開始です!怒涛のような締め切りの数々や大好きな肉のこと。見たこと、聞いたこと、会った人、出かけていった旅のこと。角田さんの毎日のつれづれはここでしか、読めません!!

2007年12月1日〜27日

日
12月1日
土曜日

 仕事場にいって、新しくできた本棚に本をおさめたところ、もうあっちゃこっちゃに山積みされていた本がすーっとなくなり、ちょっとしたストレス解消になった。その後ジムにいき、Hさんに会いHさんの筋肉美に見とれつつ運動し、帰って焼き肉。なんか毎週焼き肉。焼き肉から帰ってDVD映画を見る。度肝を抜かれる映画だった。

日
12月2日
日曜日

 隣町の電気屋にいって、必要なものを買い、その後必要はないものを見にいく。電化製品好きなので、見ずにはいられないのである。最近私が心を奪われているものといえば掃除機で、でもうちに掃除機あるし、うーん、でもいいなーこれ、と思いつつ、試し用の掃除機のスイッチを入れ、フロアの床など意味なく掃除してみたりして、うーん、と思い、帰る。長芋と、里芋と、オクラとハムのグラタンを作ったらたいへんおいしくできた。思うのですが、里芋ってもう少し皮がむきやすければ、爆発的人気になると思うんだけど。食べ終えてDVDで映画を見る。私は放っておくと一年のうち一度も映画館にいかなかったりする出不精女で、そちら方面の文化がまったくもって欠落しているが、今年は仕事のおかげで毎月映画を見ていることである。ありがたい。

日
12月3日
月曜日

 午前中一件、午後一件取材。午後の取材で衝撃の祝事実を聞く。ずーっと会っていなかった友人が来年子を産むのだ!すげーなー。たのしみだなー。
 夜、湯豆腐を食べて、生まれてはじめて湯豆腐ってうまいって思った。締め切りいつつ。

日
12月4日
火曜日

 仕事が仕事が仕事がおわらなーい。毎年毎年、この季節になると年末進行、という言葉があちこちでささやかれ、それはつまり、印刷所が休みに入ってしまうので締め切りがいつもより早まるという意味なのだけれど(こういう意味の言葉は五月の連休前と、盆と、年に三回聞く)、でも、なんか私、ねんがらねんじゅう締め切りだし、その前(二十代のころ)は締め切りとかあんまし関係なかったので、年末進行というのがいつくらいからはじまり、いつくらいからたいへんなことになるのか、その実体が今ひとつよくわかっていなかったのだが、今のこの、ちょっとどうなっちゃってんの、という感じ、これぞまさに年末進行、なのではなかろうか。忘年会も断って仕事しているざんすよ。途中で頭に綿が詰まったような気分になったのでジムにいって、過酷な練習をする。

日
12月5日
水曜日

 ジムにいかなくとも日々が過酷。昼に来年の打ち合わせをDっちとし、来年がなんとなくたのしみになり、帰って仕事をし、また出かけて中野で南野陽子さんと対談。一週間に女優のかたに二人も会うなんてなんだかすごいことである。締め切りみっつ。

日
12月6日
木曜日

 宅配便が届き、差出人を見たら私が十八年前からファンであるところの西原理恵子さんで、ぎ、ぎ、ぎ、ぎょわおー、とどもりつつひとり叫ぶ。なんとうれしいことであろう。昼に巨大なメンチカツを食べ、午後になって都心方面に出かける。目黒のスタジオで取材。

日
12月7日
金曜日

 来週だと思っていた締め切りが昨日だった。あんれまあ。あわてて書く。お弁当食べつつゲラ読んでまた書き、帰る。目下土鍋ブーム。うちには小土鍋しかないが、大土鍋を買おうかな。締め切りふたつ。

日
12月8日
土曜日

 しくしくしくしく。土曜出勤がかなしくて泣いています。でも仕事が終わらないの。しくしくしくしく。しかし土曜はやる気が出ませんな。夜、仕事を切り上げ新宿にいく。家具屋を見て、家具屋のそばの台湾料理屋に向かう。今日はここで、九月にいった台湾取材チームで打ち上げがあるのだ。ぞくぞくと集まり、みんなで乾杯。丸テーブルにわさわさと料理登場。この台湾取材は私にとってなかなかの過酷さであったので(みんなそれぞれの理由で過酷な旅だった、ずっと雨だったし)、旅行時に初対面だったみんなが朋輩のように思える。
 二軒目、焼酎を出す店にいって飲み続ける。違う業界の人の話はたのしいなあ。気がつけば十二時をまわっていて、あわてて帰る。みんなその後も飲みにいったもよう。テレビの人は夜に強い。

日
12月9日
日曜日

 掃除をしてこけし屋へ。こけし屋というのは喫茶店で、今日はこけし屋別館でトークショーがある。待ち合わせはこけし屋本館。古い喫茶店で、私は二十六歳から三十三歳くらいまでに書いた小説の打ち合わせを、ほぼこの店でやっていたので、戸惑うくらいなつかしかった。あー、あの席でK社のあの人にはじめて会ったなーとか、あー、あの席でOさんがいきなり目の前で原稿読みはじめてつらかったなーとか、あー、カップリングノーチューニングの原稿をあそこで渡したなーとか、洪水のように記憶があふれるあふれる。カフェオレがミルクコーヒーの味がしておいしいんだよなー。
 それで五時から別館の二階でトークショー。北尾トロさんがお相手をしてくれる。中央線に暮らすというのはどういうことか、というような話。ふだんはぜったいに言わないような話をたくさんしました。いらしてくださったみなさん、ありがとうございました。その後、近所の店で打ち上げ。たのしかったが、翌朝が早いので、十時過ぎにひとりで帰った。スタッフの方々も、本当にありがとうございました。

日
12月10日
月曜日

 朝は寒いねえ。歩いていると途中から急に暑くなるけど。
 新宿にいく用事があったので、百貨店に寄り、土鍋を買う。もう土鍋のことしか考えられないほど土鍋に心酔していたのだ。重いが、うれしくて重さも半減。目止めをして、初っぱなからカレー鍋を作ったら、新品の鍋がカレーくさくなった。当然ですね。締め切りみっつ。12月はほんと、変則的な日時で締め切り多いよな。まだ年末進行期なのかなあ。

日
12月11日
火曜日

 夕方都心へ。今日はマラソンチームで皇居走りの日。今回は多数のゲストが参加し、二十人ほどで走る。前よりはつらくなかったかなあ。その後銀座に移動して、忘年会。飲む飲む。ざばざばと飲む飲む。私の持参したハイチオールCがテーブルを行き交ったことである(二日酔いによくきくという話)。気づけば日付が変わり、気づけば買ったばかりのハイチオールCを店のテーブルに置いて帰ってきていた。むーん。締め切りふたつ。

日
12月12日
水曜日

 みっちりと28日まで締め切りが詰まっていて、昨日まで重苦しい気分でいたのだが、今日になってほんの少し光が見えた、ような気がする。午後四時に来客。たいへんうれしい取材である。昨日が睡眠不足だったので早寝。締め切りひとつ。

日
12月13日
木曜日

 人に会う予定もなく、みしみしと音が出るほど仕事。ところでこの日記のページで、過去の日記(べつのところで書かせてもらっていた日記)まで読めるんですね。すごいことですね。仕事に倦み、「去年の今ごろって何してたんかいなー」と思い、去年の12月を読み返してみたところ、去年もべらぼうに忙しいと連発して書き、もっのっすごく驚いたことに、まったくおんなじ12月12日の日記に「よっしゃ光が見えたデ!」と書いてあった。昨日、締め切り地獄のなかたしかに光が見えたのだが、昨年もまったく同じ状態だったとは、あなおそろしいことである。しかもさっぱり忘れているとはこれいかに。つまり、喉元過ぎれば熱さを忘れるという仕組みが、元凶なんだな。来年もおんなじことになっていたら嫌だなあ。締め切りひとつ。

日
12月14日
金曜日

 昼過ぎに仕事場を出、都心にいく。ゆりかもめっていう電車にはじめて乗った。この電車も珍妙ですごいが、窓から見る光景がまたすごく変であった。東京って広いなあ。フジテレビ内の会議室で新しい文学賞にまつわる記者発表があり、その後、私は新宿へ。いきかたがわからないのでやむなくタクシーに乗る。道、激混み。新宿で用を終え、世田谷区のどこかに向かう。これもまたいきかたがわからないので、やむなくタクシーに乗る。ふたたび道、混んでいる。今日は道路の混む日なのですね。今年2月の蟹チームで、豚。蟹チームなのに豚。豚後、Kさんが青春の夜を過ごしたというバーにいってさらに飲む。生からすみというおつまみがあり、頼んでみたら、腰が抜けそうなほどうまかった。でも、耳掻きでひとすくいくらいの量。みんなで分け合って食べた。神楽坂にいたKっちが途中合流、あのすばらしい生からすみを彼のために再度注文するが、もうない、とのことであった。夜ふけて帰る。何を話したんだか、家に帰り着くころにはほとんど覚えていなかったが、しかし無闇にたのしかったことだけは覚えていた。締め切りひとつ。

日
12月15日
土曜日

 12月ももう真ん中ですね。あといくつ寝るとお正月、なのですね。近隣の繁華街に出たら、けっこうな人出で、師走らしい光景であった。心酔している土鍋で海鮮チゲを作る。カレーくさい鍋がキムチくさくなる。

日
12月16日
日曜日

 午後、冷めたい風のなかを散歩。好きなケーキ屋でクリスマスケーキの予約をしていたので、ついふらふらと予約してしまう。クリスマスケーキの予約なんてしたことなかったのになあ。夜、心酔している土鍋でねぎま鍋。おそるおそるせりを入れたら、これが意外に合ったことである。もう私、土鍋料理しか作らないもんね。ビバ土鍋!

日
12月17日
月曜日

 午後、知人に紹介してもらった四谷のクリニックで、足のかたちを見てもらう。歩き方の癖などがわかる。その後帝国ホテルにいって野間賞のパーティ。たくさんの人がいてたいへん華やかだった。九時に帰ろうと決めていたのに、はっと我に返ってみれば、そこは三次会の飲み屋で、時間は一時を過ぎていた。こわいことです。締め切りひとつ。

日
12月18日
火曜日

 パソコンの調子が悪くなり、おびえながら過ごす。文章を打っていると途中で止まってしまい、ぜんぶ消えてしまうというおそろしい事態になっているのだ。これじゃあ書いても書いても消えてしまう!昼過ぎに、浜松町にいってアイルランド音楽を流すラジオ番組に朗読しにいき、なおってますように、なおってますようにと祈りながら仕事場に戻るも、仕事再開したらパソコンは悪化している。大パニックと涙を隠し、夕方、新しいパソコンを買いにいった。泣きたいほど重かったが、持って帰る。でも締め切りはある。こわい。世のなかこわい。

日
12月19日
水曜日

 パソコンを買ったはいいものの、ネットにつなげることができず、原稿打ちはニューで、メールはオールドで、という二本立ての惨状になっている。つらすぎて夜に何鍋にするか考えることで逃避。ほんと、まいんち土鍋料理。あわあわとしつつ締め切りふたつ。

日
12月20日
木曜日

 二本立てのパソコンで仕事。今年が終わることがどうもまだ信じられない。信じずとも終わってしまうのだが。ジムにいって過酷な練習。締め切りひとつ。

日
12月21日
金曜日

 いろんな設定をしてくれる人が25日にきてくれることになった。私にとってはその人がサンタだな。お茶とお菓子を用意してお待ちしています。  夕飯に、魚を焼いたりしようかと考えていたが、やっぱり土鍋を使いたくなって鍋料理。いいのかこれで。締め切りふたつ。

日
12月22日
土曜日

 今日って南瓜を食べるではないか?が、南瓜は食べず、都心へいき、美しいツリーのイルミネーションなどを見て、肉を食らう。その後なんとなくカラオケにいって、シャウト唱法を練習した。私にもやればできることがわかった。練習すれば、朝からでもシャウト歌唱はできるらしい。カラオケ屋は泥酔状態のグループ客(ほとんど中年)で混んでいた。忘年会なんだろう。

日
12月23日
日曜日

 午後、いつもの蕎麦屋に年越し蕎麦の予約をしにいき、その後近所を散歩する。それにしても中途半端な時間なのに蕎麦屋は満席だった。あの人たちはおやつとして蕎麦を食べているのかなあ。「ごはん食べられなくなるでしょ!」と叱られるような時間なのに。  町は正月のように静か。お寺は早くもお正月の用意。ぐるーりと町を歩き、近所の古着屋に寄ったら、K社のAさんが家族連れでいてびっくりした。Aさんは会社にいるときよりも若々しく、なんというか光り輝いていた。私はこの店で皿を一枚買ったのだが、レジの女の子が「この皿、かわいいですよね。大好きだったんです。うう、さようならー」と(最後は皿に)言いながら包装してくれるので、なんだか買うのがいやになった。「もう一枚あったからだいじょうぶですよ」と言っておいた。「あーよかった」と女の子。   土鍋を使いたくて蟹を取り寄せたので、夜、その蟹を食べる。蟹のうまさより蟹後の雑炊のうまさが際だつ鍋であった。鍋後の雑炊は、ホットプレート鍋よりアルミ鍋より断然土鍋ですな。それにしても今年後半は鍋にすっかり心を奪われた日々である。  あと5日仕事をしたら今年のぶんは終わりだが、終わるのか。マジで。

日
12月24日
月曜日

 休日出勤。夕方ジムにいく。トレーナーのKさんがやめてしまうので、女性がたくさんきて彼女に練習してもらっていた。女更衣室がこんなに混んでいるのははじめて見た、というくらい。私も最後の過酷な練習をしてもらう。今年はこれで打ちおさめ。駅前で、たぶんだれかんちでクリスマスパーティをするのだろう若者たちが大勢待ち合わせをしていて、ああ、若いってのはいいなあとしみじみ思った。若者よ、吐くまで飲んでどんどん醜態をさらしてくれ。若いときしかできないからね。私もも一回若くなったらいちばんやりたいのはそれだ。  予約したケーキをとりにいって、魚を買って帰る。クリスマスイブだというのに、今年いちばんくらいにまずい夕飯を作ってしまった。自分でもほとんど食べないほどであった。ケーキがおいしかったのが救い。年賀状は明日まで。年賀状にも締め切りがある。

日
12月25日
火曜日

 メリークリスマス。かんたん設定の人がきてくれるも、必要最低限のことを非常に冷淡に教えてくれるのみなので、私も教えてほしいことが百個くらいあったが黙って作業を見守った。も、もうすこしなんていうか……ちょろっとくらいいろいろ教えてくれても……。  夕方仕事場を出て都心にいき、ロシア料理の店でB社の方々と忘年会。ロシア料理にたいして懐疑的だったが、たいへんおいしくてびっくりした。その後、みんなでボウリングにいく。ボウリングなんて十年ぶりくらいである。一開戦目はみなへろへろで、平均50くらいだった。二開戦目に突然B社Sさんがめきめきと本領を発揮し、三開戦目では男の子のような点数(150くらい)をとっていた。今ボウリングにはまっているというMさんが、なぜか最下位。ボウリングってやるとおもしろいなあ。

日
12月26日
水曜日

 いろんなことに時間の余裕がないまま時間が過ぎていく。夕方、仕事場で友人たちと忘年会。おでんとカレーという子どものためのようなメニュウを作った。今何時だろ、と時計を見ると10時で、まだ10時か、と思い、次に時計を見たら2時だった。びっくりした。時間って飛ぶよな。

日
12月27日
木曜日

 私の仕事納めは明日。本当に年末になっていてびっくりする。今日は締め切りみっつ。これで年内の締め切りは終わり。だと思う。  今年もいろいろありがとうございました。来年もよろしく。って書くと、なんか年賀状の文面みたいだなあ。今年一年は三週間くらいしかなかったような気がするので、来年はせめて五カ月くらいに感じられるといいなあと思う。  みなさまどうぞよいお年をお迎えください。

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