アスペクト

つれづれ雑記 角田光代

作家・角田光代さんの日常を綴る日記が、アスペクトONLINEにて連載開始です!怒涛のような締め切りの数々や大好きな肉のこと。見たこと、聞いたこと、会った人、出かけていった旅のこと。角田さんの毎日のつれづれはここでしか、読めません!!

2008年3月1日〜3月31日

3月1日
土曜日

 急に春らしい陽気。午前中に家を出てお茶の水で河出書房のTさん、Hさんと落ち合う。東京堂書店にいき、本に署名をさせていただき、もんのすごくほしい本があったので一冊買い、そのまま書泉グランデでまた本に署名をさせていただく。書泉グランデの事務所にはちょっと雰囲気のいいルーフバルコニーがあり、「バーベキュー」と思った。書泉グランデでもほしい本があったのだが、この調子でいくと今日の終わりには荷物がたいへんなことになるから、今度買うことにした。その後、三省堂書店の事務室で本に署名をし、みんなでお弁当を食べ、二時からサイン会。毎度のことながら、だーれもこないんじゃないかなあ、と思っていたら、とても大勢のかたがいらしてくれて本当にうれしかった。ありがとうございました。
 その後、成城学園前に移動し、三省堂書店成城店でサイン会。ここの店長さんは、じつは以前から、ご夫婦でサイン会にいらしてくださっている。奥さんは私と誕生日がいっしょなのである。成城店のサイン会は夜だったのに、いらしてくださったかた、本当にありがとうございました。
 みなさんにこういう機会に掛けていただいた声に、どれほど励まされ救われていることかと思います。幾度お礼を言っても足りないくらいです。
 その後、成城店の上にあるお店で、河出書房の方々と蕎麦を食べ酒を飲む。たのしすぎて時間の感覚がわからなくなりかけたが、明日もあるので早めに切り上げる。

3月2日
日曜日

 もう3月なんだなあ。今日も晴れ。銀座で昨日のTさん、Hさんと待ち合わせ、ブックファースト、教文館で署名をさせていただく。このどちらも銀座ではよく立ち寄る店である。また本を物色してしまい、なんでもほしくなる。とくに、教文館ではサイン本コーナーがあり、宮本輝さんとか桐野さんとか伊集院さんとか、それは豪華なラインナップでサイン本が並んでいて、Tさんとしばし我を忘れてサインを見まくる。落款や文字にその人らしさが出ていて、本当に見ていて飽きない。私の字って地味なうえ、下手だな。とちょっと思った。
 それにしても晴れた春の銀座というのはいいものですねえ。歩行者天国をふらふらと歩いていきそうになった。その後、三省堂書店有楽町店にいく。イトシアってはじめて見た。有楽町駅前、すんごくかわっていたのでびっくりした。銀座はよくいくが、こっち側はなかなかこないのだ。昔いい映画館があったんだけれど、そこを含めてぜんぶイトシアになっていた。
 三時からサイン会。こちらも、きっともうだーれもこないよ、といじけた気持ちで思っていたのだが、たくさんのかたにいらしていただき、本当にうれしかった。ありがとうございました。署名をしている時間に、いろいろ話しかけたかったんだけれど(イトシアいきましたか?とか。イトシアの地下にすごくおいしそうないちごのケーキを売っているのをテレビで見たんですが知ってますか?とか)、私、素面だとほんっとうに人見知りで死んだ貝みたいな人間なので、黙々と字を書いていてすみませんでした。ここでもいろんなかたに、ありがたいお言葉をいただき、年をとって涙もろくなった私は泣きそうになったことでした。本当にありがとうございました。
 この2日間いっしょに歩きまわってくださった、河出の営業の方々の熱い気持ちも本当にうれしく、頭が下がる思いだった。みなさんありがとうございました。夜、力をつけるために焼き肉を食べにいく。日曜なのにどの焼き肉屋も混んでいた。

3月3日
月曜日

 お雛祭り。お雛祭りのちらし寿司は先週すでに食べた。
 今日あったはずの私用を二個キャンセルし、猛烈に仕事をしてなんとか間に合わせる。なんとか間に合ったよ(たぶん)! 夕方仕事場を出て、帝国ホテルへいく。小学館漫画賞の授賞式。今日は私が選考結果を発表する係なので、緊張し過ぎて胃が痛い。なんとか終え、パーティに寄らず直帰。ごはんを食べていなかったので、餃子屋にいくが閉店、巻き寿司屋にいくが閉店、この町は飲み屋以外の夜が早いなあ。もう一軒の巻き寿司屋にいったら、閉店前の見切り品のようなものしかなかった。やむなくそれを夕飯に。なんかかなしい。
 そして30分くらいで猛烈に荷造り。明日は四時起きで香港である。締め切りよっつ。

3月9日
日曜日

 香港で、文学フェスティバルというものがあって、各国の作家が呼ばれるのだけれど、今年招待していただいたのでいってきたのだ。イギリス、アメリカ、オーストラリア、インド、カナダ、スペインと本当にいろんな国から作家がきていて、香港のあちこちで、講演をしたりトークショーをしたりしている。私は香港在住の日本人と、日本語を勉強している香港の大学生向けのイベントをふたつと、五人の作家による朗読会に出た。そのイベントのひとつでいった香港大学は、山の中腹にあり、景色がすばらしい。この大学の学生さんが、学内を案内してくれたのだが、みんな本当に日本語がうまくて親切で、しみじみとしたいい時間を過ごした。大学でのイベントを仕切ってくださった、中野嘉子先生のお話を伺っていたら、本気で香港に住みたくなった。
 私は自分のイベント以外、ほかの作家のイベントにもいかず、町を歩き倒しおいしいものを食べ倒していた。香港ってすばらしい。帰ってきてお誕生日。41歳になった。お誕生日はいつでもうれしく、終わってしまうと「あーあ」と思う。そういえば、中野嘉子先生がなんとおんなじお誕生日だった。すごい偶然だなあ。
 それでお誕生日(昨日だが)に、眼鏡を買おうと思って、いろんな町の眼鏡屋にいき、眼鏡を都合五十個くらい試しがけしたのだけれど、かなしいことに、私の顔に似合う眼鏡というのは、この世に一種類しかないらしいことがわかる。町にはあんなにいろんなお洒落な眼鏡があるのに、私には一種類。その一種類をやむなく選び、視力検査をする。私の視力は安定せず、悪いときは0.4、いいときは0.9だったりして、0.9だったらあんまり眼鏡を作る意味がないので、「悪いように悪いように」と念じてはかったら、0.6しかも乱視入り、とのことであった。よかった眼鏡が買えて。

3月10日
月曜日

 雨だったので歩かず電車通勤。電車だとすぐ着く。曲も二曲くらいしか聴けない。
 昼に、夜ごはんのためのキングサーモンを買い、仕事場の冷蔵庫に入れたまま帰り、ごはんのしたくの段になって「はっ、鮭!」と気づく。しかたなくべつの献立に。締め切りふたつ。

3月11日
火曜日

 天気予報であったかい、あったかいと言っているのに信じ切れず、厚着をして家を出たら、やっぱり朝からすでにあったかかった。疑ってすまなかった。
 それにしてもさあー、最近さあー、なーんか楽をしよう楽をしようという編集者が増えたよな……あっ、いけない、放っておいたら愚痴がとめどなく垂れ流れていってしまう、やばいやばい。いやー、もうねえ、自分は古い世代の側になったんだなあと思う。この先、いろんなことが様変わりして、私なんかほんっとうにうるさい婆あになってくんだろうなあ。いや、すでにそうか。すみません。

3月12日
水曜日

 なんかずんずん日にちがたっていくなあ。仕事場の床がなんだかすごいことになっている(綿埃関係で)のを二週間ほど前から知りつつも、しかし締め切りがたいへんなことになっていて、「わかってるんだわかってるんだわかってるんだよう」と思いながらも、しらんふりしていたが、もう見るに見かねて、お掃除クイックルみたいなものをかけまくった。それでさっぱりしたかといえば、そうでもなく、もっと徹底的に掃除をしたい欲求だけが残った。これは、もんのすごい空腹のときに、チョコを一粒くらいつまんでみて、ぬおー、と食欲が刺激されるのと同じ原理ですなあ。
 夜、眼鏡ができたと電話がある。

3月13日
木曜日

 新しいプリンターが必要になったので、プリンターを買いにいきがてら、眼鏡を受け取り、ついでに本屋に寄ったところ、魔窟に入ったように外に出られなくなった。でもここでほしい本を買いあさったら帰りがすんごい荷物ですんごいつらいだろう、と呪文のように自らに言い聞かせ、脱出。お昼の時間だったので、前から「ものすごーく辛い」と聞いていたたんたん麺の店で、いちばん辛いたんたん麺を食べる。汁真っ赤だが、たいへんおいしい。
 買ったばかりの眼鏡を掛けて帰ってきたところ、世のなかがあまりにもぴかぴかしているので驚いた。いろんなものの輪郭がくっきりして、しかもみんなぴかぴかしている。いろんなものが色鮮やかで、ありとあらゆるところに文字が書いてある。眼鏡を掛けていないと、なんとなく町はスモーキーな色なのだと知る。遠くの人の顔まで見える。私今まで人の顔なんて意識して見たことなかったんだなあ。みんな顔が違うのだ、すっごくすっごく違うのだ、あたりまえだけど。前は何を見ていたんだろ?オーラ?
 ところで、日常的に眼鏡を掛けている人って、眼鏡が似合う上、なんか乾燥肌で、全体的にこざっぱりしている。日常的に眼鏡を掛けていない私は、眼鏡が似合わず、しかもなんか、眼鏡を掛けたとたん全体的に脂っぽいのがやけに目立つ。眼鏡をかけ続けていたら私もこざっぱりした人間になれますか? 締め切りふたつ。

3月14日
金曜日

 ホワイトデイだと思うが、私はだれにも何ももらえない。のでふつうの日とかわらない。
 午後、都心方面で、ランニングシューズのなかに敷くインソールを作ってもらったのでとりにいき、ついでに、生まれてはじめてきちんとしたマッサージを受ける。たいへんに心地よくてびっくりした。その後初対面の方々とうち合わせをし、仕事場に戻って残務仕事をし、いったん家に帰ったのち近所のお寿司やさんにいく。今日はこのページの担当をしてくださっているTさん(おいしいもの大臣)とIちゃん(声がうっとりするほどきれい)と寿司を食らうのである。泣くほどうまかった。
 寿司後、ワイン屋台へ。夏場は、外から見るとたいへんに幸せそうなこのワイン屋、冬場はシャッターが閉まっている。シャッターを閉めた店内は、狭くて快適で、なんだかスペイン映画の舞台セットのようであった。お客さんのスペイン土産の生ハムまで出てきたからなおのこと。漫画家の伊藤理佐さんご夫妻にお会いする。初対面でびっくらこいた。私、伊藤理佐さんの漫画も吉田戦車さんの漫画も、二十代のころから読んでいるんです。だから二人合わせれば四十年の読者ってことになる。めちゃくちゃな計算思考ですが。締め切りふたつ。

3月15日
土曜日

 家で本を読む。天気がよかったので散歩して、はじめていく酒屋でワインを買い、帰る。夜はお好み焼きを食べにいく。あいかわらず私はもんじゃを焼くのが自分でも感動するほどうまい。でも、隣の子ども連れのおとうさんもうまかったな。

3月16日
日曜日

 数日前、新聞の投書欄でふきのとうについて読んだからか、「ふきのとう」で頭がいっぱいになり、隣町にいってふきのうとうや海老や桜海老を買い、さらに夜になってたらのめを買い足し、厳かな気持ちで天ぷらに挑む。なぜ厳かな気持ちかといえば、私は今まで一度たりとも満足な天ぷらを作れたことがなく、失敗し続けて十数年、天ぷらに対し私は著しく敗北感を覚えているからなのだった。
 ところが!今日は生まれてはじめての大成功の天ぷらであった。感動に打ち震えるくらいの大成功であった。それで、成功の鍵について考えてみた。
 面倒だからといってフライパンで代用せず、揚げ物用の南部鉄器を用いる、というのがもっとも大きな理由であると思う。さらに天ぷら粉は、スーパーマーケットで「店長おすすめ」マークのついた昭和のナントカってのを買ったのだが、これもよかったんだと思う。店長に感謝。
 もうこわくないぞ天ぷら!いつでも揚げてやる!

3月17日
月曜日

 午後打ち合わせ二件。Mさんが、誕生日を祝ってすばらしいシャンパンをくれる。Mさんありがとうございます。今日は午後7時に近隣で打ち合わせごはんなので、6時半まで仕事をする。すなわち残業。絶対にしたくないと思っている残業。6時過ぎに、耳の奥がもーんと鳴る。耳の奥がもーんとなるくらい小説を書いたってことだ。あんまりうれしいことではない。締め切りふたつ。耳もーん。

3月18日
火曜日

 もう花見の日程の相談がいきかう時期である。こわし。
 昼に仕事場を出て、表参道の喫茶店で打ち合わせ、二時半に歯医者さんにいき、その後新潮社にいってR18文学賞の選考会。おだやかに刺激的な議論を経て無事に決まる。おめでとうございます。その後、毎年いく大好きなごはんやさんでごはん。今年も悶絶するほどにおいしかった。場所を変えて赤いバーで赤く染まりながら少しだけ飲み、帰る。

3月19日
水曜日

 晴れなのか曇りなのか空が決めかねている感じ。でも夜は雨と決めているみたい。昼ごはんを猛スピードで食べ、午後、横浜へ。東横線でレッド・ツェッペリンを聴きながら爆睡してしまう。みなとみらい駅で降りる。この駅、本当に未来みたい。横浜にくるといつもなんかさみしい気持ちになる。これはこの町が私には記憶の町だからだろう。横浜美術館で打ち合わせをし、たくさん絵を見せてもらって、さらに打ち合わせをし、帰る。この美術館では今ゴス展をやっており、多くのゴス男女が来館していたのが何か頼もしいような感じだった。締め切りみっつ。

3月20日
木曜日

 今日はたしか亡父の誕生日。休日なのに仕事をしているせいか(もうずっとそうなんだけど)、昼に、ジャンクな食べものが異様に食べたくなり、コンビニエンスストアにいく。これはいったいどういう目的で作られたものだろう?と思うような汁なし麺があり、あまりの興味に負けて買ってしまう。ふつうにジャンクにおいしかった。それからずっと買いたいと思っていた、鳥のかたちの携帯ふりかけも買ってしまった。やさぐれているなあ。
 夕方、ジムにいったら休日だからか混んでいた。体力が落ちたなあ、としみじみ思った。帰り、そら豆を買いにいったらあまりに高く、二軒目の八百屋でそれよりは安かったので買う。そら豆はまだ高いのだな。毎年思うが、そら豆の寝ているあのクッション(皮の内側)、なんというふかふかさ具合だろう。私も一度でいいからあのクッションに包まれて寝てみたいよ。締め切りひとつ。

3月21日
金曜日

 仕事を終えて新宿のデパートにいき、知人にお礼の品を送り、筆箱を買う。四年ほど前に知り合いから筆箱をもらい、私はこの筆箱がたいそう気に入って、筆ばかりか、リップクリームとかUSBケーブルとか名刺とかまで入れて愛用していたのだが、2月のアメリカ出張でなくしたのである。たぶん、コロンビア大学のドナルドキーンセンターに置いてきたような気がする。それで、おんなじ筆箱の色違いを買った。その後、広尾の店で、新婚のK社Sさんと、その妻のIさんを祝ってごはん。屋敷のような店であった。締め切りみっつ。

3月22日
土曜日

 がんばって走る。8キロまで走れるようになった。先週の成功を忘れまいと、もう一度天ぷらを揚げてみる。やっぱりうまくいった。しめしめである。

3月23日
日曜日

 ほとんど春ですね。午前中にDVDで映画を見、お昼ごはんを食べてから東京駅にいく。今日は丸善でトークショーがある。板尾創路さんが「板尾日記3」を出版されたのでその出版記念。この日記、3というからにはちゃんと1も2もあって、読んでいるとひきこまれて中毒になる。それで夢中で読んで仕事をはじめると、我知らず板尾さん文体になり、あわてて戻さなければならない羽目になる。
 板尾さんとは五年くらい前「空中庭園」の試写のときにお会いしたが、でもちゃんと話すのははじめてでたいへん緊張した。板尾さんは自然体なのに何か異様な存在感のある人だなーと思った。今回お話しさせていただいて、この人の奇妙な独自性をひしひしと感じたことである。肩書きがすでに本人っていうか。蕎麦屋で打ち上げをし、日曜だし、そんなに飲まないで早く帰ろうと思っていたのに、気がついたら夜だった。たのしくて飲み過ぎた。

3月24日
月曜日

 午後から目白で小説宝石新人賞の選考会。去年は桜が満開だったが、今年はまだ咲いていないばかりか、寒い。タクシーの運転手さんが「明日は早稲田の卒業式で、ものすごいことになる」と言っていた。そういえば、最近袴をはいている娘さんをよく見るものな。
 三時から六時まで、選考会はみっちりと難航し、最後の最後に受賞者が決まる。その後、ごはんを食べて飲む。もうひとりの選考委員、奥田さんは今回が最後。奥田さんと話していると、この人、ほんっとうに自由な人だなあと思う。寝不足なので早めに帰った。締め切りひとつ。

3月25日
火曜日

 午後、ジムにいったら筋肉美作家Hさんがいて、2分程度話しただけなのに腹が痛いくらい笑った。おかしいなあHさん。
 この季節になると、もうウールのセーターは着ませんね。私、そういうの本当に疎くて、子どものころは母親が「そんな格好はへん!薄着すぎる!」とか「もうコート着てる人なんていないよ!」と出掛け際に言い、うざいなあと思っていたものだったが、なんとすばらしい助言だったのだろうか。今はそんなことを言ってくれる人がいないので、天気予報のあいちゃん(たしかあいちゃんだったと思う)が、「今日は4月の陽気なのでコートなしでだいじょうぶ」などと言ってくれるのを、すがるように見ているのだが、ときどきあいちゃんは、「今日は洗濯もの日和!」などと、私にとってはどうでもいいことをにこにこと言ったりするので、そういう日はちょっと困る。毎朝、「今日は半袖を着てね」「袖無しはまだ早いゾ!」などと言ってくれたらいいのになあ。あと、「今日は若作りしすぎでおかしいネッ」とかね。締め切りひとつ。

3月26日
水曜日

 日が暮れてから新宿のデパートにいって知人へのお祝いを送り、各フロアから延びてくる物欲の魔の手を振り払い、乃木坂方面へ。ミッドタウンって、あれ、なんなの? 町? あんなとこ、私一生ひとりで入れないような気がする。乃木坂のイタリア料理屋で、K事務所Hさんと打ち合わせごはん。ごはんがおいしすぎて、卒倒しそうになり、仕事の話をするそばから忘れそうであった。このお店は量が多いらしいが、お願いしたら少量にしてくれてありがたかった。たった二人でフロアを仕切る女の子たちが、感動するほどかっこよかった。締め切りひとつ。

3月27日
木曜日

 通勤路の桜がじょじょに咲きはじめている。桜が咲くとなぜか焦る。
 午後、新宿で打ち合わせ。来年の仕事で、打ち合わせているときは「うおー」とやる気になり、ものすごくいい小説を書こうと思えば書ける気持ちになるが、実際にはじまると、この「うおー」がどんどんしぼんでいく場合があって、いや、場合があるというよりもむしろしぼんでいくことのほうが多くて、言葉ってのは難儀だなーといつも思う。「うおー」をべつな感じで盛り上げていくわけなんだけれども。
 デパートで牛タンを買おうと思ったが、テールはあってもタンがなく、でもせっかくスーパーだしな、と思い、羊の肉を買い、夜ジンギスカン。たれに浸かっている羊肉より、つかっていない羊肉のほうが、私は好きです。

3月28日
金曜日

 午後にジムにいったら手をふる人が。筋肉美Hさんでなく、同級生作家Fさんであった。Fさん、マシンで走っていたので話せず、手をふりあっただけ。
 そして!今日は久々の肉の会である。今まで連続出張だったので、今年は一度も肉の会にいけなかったのだ。今年初の!肉の会!
 7時半から肉を焼きはじめ、途中、全員が白いごはんを食べていることに気づき、何か非常に感慨深く思う。昨年は、肉といっしょにごはんを食べるのは飲めない人ばかりだったのだ。当然私も途中から白いごはん。焼き肉とごはんをいっしょに食べるのは、十代の人とばかり思っていたが、ブーメランのようにみな40歳くらいでごはんに帰郷するのだ。久しぶりなため楽しすぎて深夜過ぎまで飲んだ。タクシーの運転手さんが「こんな時間じゃ眠いでしょう」と言っていた。たしかに眠かった。

3月29日
土曜日

 昼近くまで寝て、仕事を依頼された映画のDVDを観ていたら、ちょっと感動というより驚愕、といった感じになって、驚愕したままジムにいき、ジムを出てまだ驚愕したまま本屋に直行し、映画の原作本を買い、猛然と読みはじめてやめられなくなる。ちなみに映画は「つぐない」、原作はマキューアンの「贖罪」。夜はまたしても近所の焼き肉屋さんにいく。またしても途中でごはんを食べてしまう。

3月30日
日曜日

 朝、いつもと違う方向に走る。はじめてのコースで、気持ちが新鮮。いつものコースは約2キロで公園に着くが、こちらのコースは3キロ過ぎで別の公園に着く。この公園は巨大で、しかも桜の名所。桜がものすごいことになっていた。川をアーチのように覆っている。5キロで引き返し、生まれてはじめて10キロ走れた。すごいことだ!
 いろんなことの合間に昨日の本を読みふけり、ああ、上下巻がもう終わってしまう。そして3月も終わってしまう。

3月31日
月曜日

 ついに3月も終わり。昼過ぎに浜松町の文化放送にいく。ここはこの数カ月毎月いっているんだけれど(デジタルラジオでアイルランドのエッセイを書き、朗読しているんです)、会社が駅と隣接していて、いちばん前だか後ろだかの改札から、すぐ。それで、電車を乗り換えるとき、「いちばん前だっけ、いちばん後ろだっけ」といつも迷い、「そうだ、いちばん後ろだった」と思って乗るのだが、必ず間違えて、延々とホームを歩く羽目に。今日も、「こないだはたしかいちばん前に乗って間違えたんだよな……だから今日は後ろに乗ろう」と思って、また間違えてホームを延々歩いた。と、こうして書いているそばから、前だか後ろだかわからなくなっている。
 その後仕事場に戻り、仕事が一段落した(ような気がした)ので、仕事場の掃除を猛烈にする。が、途中で五時になり、掃除を放り出して帰る。昨日大量に作ったドライカレーを食べ、ゲラ。なんか手元にたくさんゲラがあるんですけど。締め切りいつつ。

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